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新芽と師匠
「もう、師匠!いい加減にしてください!」
すでに家は半壊しかけてる。
このままじゃいつか雷が私に直撃するわ!
弟子を雷で焦がす師匠なんて、聞いたことない。
私が助けを呼びに行こうか迷っていると、
「お久しぶりね~、守成(しゅのせい)くん。」
玄関から、澄んでいるけど間延びした声が聞こえた。
守成……師匠の名前だ。
違う読み方をすると「かみなり」になるのが特徴ね。
と、次の瞬間、師匠の顔色がかわり玄関で盛大な雷の音が。
今までで一番大きい……。
「ちょ、師匠!お客さんですよ!」
「客なんかじゃない。」
ブスッとして師匠が言う。
あれ、この言い方……。
もしかして、今の声の主と知り合い?
「いきなりひどいことするじゃない。もうちょっとで直撃するところよ。」
涼しい声を響かせながら廊下に進んできたのは、フンワリと緩いウェーブのかかった淡い緑の髪を背中に流し、明るい黄緑色に輝く目をした、鼻の形がいい美人だった。
筋肉が全身についた余分な脂肪のない師匠に比べ、すらりと細身の彼女。
深緑色の足元も隠す長い絹をそのほっそりした体にまとい、大柄な師匠より少し小さいけれど充分背が高く、色が白くて、唇には若葉色の口紅をひいている。
全身緑色でスマートな体つきなので細い枝を思わせるけど、よく見ると、モデルみたいにスタイルがいい。
「えーっと……師匠の知り合いですか?」
師匠のほうを振り向いて聞くと、後ろで鈴が鳴るようなきれいな笑い声がした(きれいな笑い声って、もしかして日本語おかしい?)。
「あら、守成くんももう師匠って呼ばれるようになったのね。じゃあ、その可愛い子はお弟子さん?」
「新芽には、関係ないだろ。」
ア……アメ?
この人の名前かな?
アメと呼ばれた女の人は、軽く笑う。
「ええ、関係ないわ。でも、気になるのよね。」
フンッと鼻を鳴らす師匠。
私は恐る恐る聞く。
「あのー……アメさんってことは、飴の神様ですか?」
すると、アメさんが、しばらく沈黙してから大声で笑いだした。
師匠がじろりとこちらをにらんで、説明する。
「新芽(しんめ)と書いて、アメだ。食べ物の飴や空から降る雨とは、何の関係もないからな。芽の神だそうだ。ちなみに顔の目ではなく、地面から生えてくる芽の事だからな。」
ふーん、なるほど。
新しい芽か……。
この人にピッタリの名前だ。
だってなんとなく新しいっていうか、流行に敏感そう。
若く見えるのも、「新しい」って感じがする。
見た目的にも、よく見たら枝よりも芽の印象が強い。
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