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「ふぅ……一緒にいるのに、他の男の子の事ばかり話さなきゃいけないなんて。少しイヤ、かも」
華奢な両腕をテーブルに投げ出すように置いて、首を小さく傾げて頬を膨らませる。
目線の高さはあまり変わらないはずなのに、妙に上目遣いに思える視線が何かを訴えた。
「そ、そういうつもりは……」
「そう? もっと楽しんで欲しいわ。せっかく学校、ズル休みしちゃったのに」
綺麗にルージュの塗られた唇は、今日はいつもより赤が強め。
唇が言葉を紡ぐために繊細な動きを繰り返す。その度にほんの小さなリップ音が耳を擽るものだから、俺の緊張は計り知れない。
「むむむむッ睦美さん!?」
髪をかきあげてチラリと見える、首筋から項にかけて。しかもすっごいいい匂いがする。
甘いような、でもクラスの女子が付けてるような制汗スプレーとかとは違う。
(もっとその、色っぽい、というか……ん?)
なんだ。この匂い。俺、これ知ってるぞ。
ほのかな香りが鼻腔を擽り、記憶を脳を刺激する。
(これは、えっと、これ)
「考え事? 私をほったらかして……悪い子」
綺麗にカットされ磨かれた人差し指の爪先が、そっと俺の唇を押した。
ふにふにと何度も押しながら、彼女は妖艶としか取れない笑みを浮かべて試すように俺を見る。
(あ……)
もう脳みそから匂いの記憶は吹っ飛んだ。ただあるのは男としての葛藤のみ。
(いやいや、違うだろ……)
こんな事をしている場合じゃないんだ。いつアイツが彼女に危害を加えるか分かんねぇ。
大体、今この瞬間も大輔が何をしているか……。
「む、睦美さんっ!」
……ごめん。綺麗事は無しだ。無理。俺には抗えない。
―――俺は、未だ下唇をむにむにと弄ぶ、その磁器のように白い手を両手で包み込む。
彼女は妖艶な口元の笑みに、聖女のような瞳で微笑んだ。
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