15人が本棚に入れています
本棚に追加
知
大きく上質なベッドは大きくは軋まないらしい。
「彰君、こういうの慣れてないでしょ?」
「え? ああ、は、はいっ!」
確かに慣れてない。その、童貞だし。
ベッドの端っこに座った俺を、見て睦美さんは困ったように笑う。
「そんな固くならないで。取って食おうなんて気はな無いから、ね」
「と、と、取って食うなんて……」
どっちかと言うと食うのは俺の方、いやなんでもない。
「……ま、私も大した経験はないんだけどね」
そう言って肩を竦める姿に少しホッとした。よく見れば彼女だって緊張してるのか、視線は外し気味だしさっきから髪先を手でクルクル弄っている。
(なんだ俺だけじゃないんだ)
そう思うと、より一層彼女が愛しく思えてくる。
俺は僅かな衣擦れと決意と共に彼女の隣に腰を下ろした。
マットレスのスプリングが微かに唸って、俺と彼女を受け止める。
「睦美さん」
「……」
もう一度名前を読んだ。そして彼女の膝の上の手と、自分のそれと重ね合わせる。
勿論自分のズボンで一度手汗拭いてからだけど。
「あ、あの」
ツンと鼻をついたのは化粧品の香りだろうか。
化粧品と言えば自分の母親のものくらいしかイメージ無いけど、そんなに悪い匂いじゃないな。
少し明るい色の瞳までよく見える距離まで身体を寄せてみる。
(め、目ぇ閉じて、くれねぇかな……)
じっとこちらを凝視する二つの瞳が、心を見透かそうとしているようで少しばかり気まずい。
「彰君」
「は、はいッ!」
「……目、閉じて?」
(先言われた)
やっぱり年下で童貞の俺がエスコート出来ないか。
うん、まぁいいか。
俺はある種の覚悟を決めて目を閉じた。
最初のコメントを投稿しよう!