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「ほら、すげぇだろ」
恐る恐る降りてきて、玄関のドアを開けたオレの目の前ににゅっと何かが差し出された。
「え」
手の上に何か乗ってる……これは。
「せ、蝉?」
そう、蝉だ。ずっと地下暮らしだったくせに、夏になれば急に人間より高い目線で喚き散らす虫だ。
こいつらの熱心な鳴き声のせいで、外気が1℃くらい上昇したような錯覚を引き起こす。
「本当はよぉ、カブトムシ捕まえに行ったんだ。でもなかなか捕まえられなくてな……でも」
全然ガッカリしてなさそうな、むしろ誇らしげに彼が胸を張った。
「こいつもカッコイイだろ!」
「え……う、うん」
まぁ確かに大きいし羽もつやつやしてて。オレ、蝉ってそんなにまじまじ見た事なかったけど。
「これ、やるよ」
「え!?」
思えば彼も変な奴だ。
見ず知らずの子にいきなり蝉を渡したりして。
大体ずっと自分たちを見てたキモチワルイ、さらに見ない顔を呼び止めるなんてさ。
「ほら、やるってば」
「え……い、いや。いいよ」
っていうか蝉だろ。ただでさえ虫にはあまり興味ないし。
やんわり制して断ろうとするけど、彼は気を悪くした様子もなくグイグイこっちに押し付けてくる。
「遠慮すんなってば!」
「いや、いいって……飼い方知らないし」
「大丈夫! 適当にカブトムシゼリーとかやっとけよ」
「カブトムシゼリー? ないよ」
「ねぇの? んじゃあ、ウイ●ーinゼ●ーでも飲ませとけよ」
「多分飲まないよ!? 」
絶対飲まない。いや。なんかプロテイン入とかあげてみたい、とか一瞬思ったけど。
うん、ないよ。ないない。
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