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次の日から、彰はオレを暇さえあれば構ってくるようになる。
夏休みも特にやる事もない、父は仕事か女か知らないけど忙しい。そんなつまらない日々のオレには、願ったり叶ったりだった。
「お前ん家さ、母ちゃんいないの?」
純粋な『?』の目に言葉を詰まらせたのは、これが最初じゃない。
「……オレ、捨てられたから」
今までは『別にいいだろ』と良くもないのに虚勢張って後で泣くのがお決まりだった。
我ながら可愛くないガキだと思う。
でもオレはこの日、初めて母がいない事を人前で泣いた。
別に泣き喚いたって訳じゃない。泣いたつもりもなかった。
彰が指摘したんだ。
「お前、泣いてんのか」
って。うん、って素直に頷いたら同時に涙も降りてきて、ほっぺたやら手の甲やらぐちゃぐちゃに濡らす。
(お母さん、なんでオレを捨てたの?)
ごめんね。と繰り返しながらも妹達の手を引いてドアを開けて行ってしまった後ろ姿を、オレは忘れる事は出来ないだろう。
追いすがることは、きっとさらに母を困らせる嫌われると涙を堪えて頷いた。
たくさんいい子にしてきたのに。たくさん、たくさん。なのにどうして……。
「……もっと泣け」
その言葉と共に身体がふっ、と暖かくなった。
抱きしめられたと気がついたのは小さな吐息を耳元で感じたから。
「すげぇ辛かったんだろ、だったら泣け。誰も見てねぇし聞いてねぇから」
「………ん」
久しぶりに感じた温もり。安堵を覚えると共に、自分がいかに凍えてたかってことに愕然とした。
貪るように包み込む熱に、彼の首筋に鼻を擦り付ける。
「く、くすぐった……ッ」
そう言って可笑しそうに身をよじる姿に、少しだけ胸がザワついたのをオレは覚えている。
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