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痴
俺は彼女に剥ぎ取られている。
長い髪に切れ長の目、通った鼻筋。赤ピンクの唇。
馬乗りになって俺を真っ直ぐ見下ろしている。
片腕は手錠で纏めて軽々と抑え付けられている。
「……先輩って、割と馬鹿?」
ぺろり、と出して唇を舐めた舌は紅い。
(ああ、緊張すると唇を舐める癖あんのか……アイツみてぇだな)
今はあんまりないけど、大輔がガキの頃緊張したりすると出た癖だったけ。
最初会った時に、なんかアホっぽいけど可愛いなって思ったんだよな。言ったら殴られるからやめといたけど。
「ここね。親父が愛人の女にあてがってるマンションなんだよね……オレと彼女、ちょっと『いい関係』だったからさ」
「え?」
「ま、1ヶ月くらい親父も女も出張って名目の旅行行ってるからさ……っていうか。ほんと馬鹿しか居ないよなァ」
……えっと。その、理解が追いつかない。
「先輩に分かるように説明してあげようか?」
そう言って、おもむろに自分の頭に手をやって長い髪を引っ掴む。
強く何度か引っ張るとズルリと髪が下がった。いや違う、頭皮ごとズレたんだ。
音もなくベッドに髪の固まりが落ちた。
その下に現れたのは……。
「え。か、カツラ? え?」
「カツラって……ウィッグって言うんだよ。これ」
ベットサイドのテーブルに置いたウェットティッシュ、を雑に数枚出して顔を拭っていく。
「結構分かんないもんかなぁ? あ、それともやっぱり先輩が馬鹿なんだ」
失礼で生意気な口を効きながら、拭いとられていくメイク。
ファンデーションの色の付いたウエットティッシュを乱雑に投げ捨てて、現れた顔……。
「だ、だい、す、け?」
鳥海 大輔、俺の幼馴染で後輩。睦美さんのストー………ってアレ?
「分かったでしょ、先輩。睦美さんって言うのはオレ。先輩が恋したのは女装したオレなの、理解した?」
理解、し尽くせない。
でも俺の頭が残念なのはよく分かった。
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