またあえた

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またあえた

   それでも僕は大部屋に少しずつ長い時間置かれるようになった。回りの子はみんな大きくて、手と足で自由に動きまわる子もいた。それはうらやましかった。  ほかにも見慣れないおもちゃや女の人が読む大きな絵の本が僕をこの部屋に慣らしていった。  いつの間にか僕はベビーベッドのある部屋を忘れた。 そんなある日、女の人が抱っこしてきた誰かを床に座らせた。  僕はあっと思った。  今にも泣きそうに辺りを見回しているのは、ふわふわ髪のあの子だ。  どうして今まであの子のことを忘れていたんだろう?  ああ、あの子の目にもり上がった涙があふれてしまう。泣いたらベビーベッドの部屋に帰るだろう。  まって!  泣かないで!  帰らないで!  僕は全身の力を使って、あの子のところへむかった。 「まあ、幸彦くん!」  先生と呼ばれる女の人が大きな声を出した。 「はいはいできたわねえ」  なんのことかわかんない。僕はあの子のところへ行かなくちゃ。  ふっくらほっぺに涙が転げた。泣き声を上げようとあの子がふにゃっと口を開けた。  もう少し!  僕はあの子のふわふわの髪に手を伸ばした。  ああ、柔らかい。くまちゃんよりさらさらふわふわくるくるだ。  あの子がびっくりして僕を見た。 「あー」  僕は笑って呼びかける。 「うー」  あの子が答えてくれた。濡れたほっぺで笑っている。 「あら、朔夜くん泣かない」 「幸彦くんのこと覚えてたのね」  先生たちが話してる。  僕はくまちゃんより柔らかなさーちゃんの体を抱いた。さーちゃんもまねをして抱きついてくる。  なんてかわいいんだろう。 「仲良しねえ」  僕はなかよしという言葉を知った。  僕とさーちゃんはなかよし。  そして僕の好きなくまちゃんより、さーちゃんの方が好き。だってふわふわで柔らかくて温かいんだもの。 「あー」 「うー」  たがいを呼ぶないしょの言葉を何度もかわす。  僕はさーちゃんがすき。  ずっとなかよしでいようね、さーちゃん。 ――了――
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