早朝の人ごみ

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 大都会は、無数の出会いと別れの場だ。  ほんのひと時の邂逅、そして一瞬の燃え尽きるような高揚感を交換した後は、また巨大な人ごみの中へと互いに消えて行く。後腐れなく、恨みっこなし。それが都会のルールだと思う。  俺はいつもそうしてきた。だから、今付き合っている玲子とも、当然そんなふうな関係でいたいと思っている。だが、彼女は俺とは少々考え方が違うようで、濃密で永続的な関係を望んでいる。そういうのは嫌だと、はなから言っておいたのだが、どうしても分かってくれないようだ。今夜も俺の部屋に泊まりに来て、食事を作ってくれたりしたが、もう俺としては何となく気詰まりな感じがし始めている。  気晴らしにコンビニに煙草を買いに行って、ついでに一服してきた。何となく憂鬱な気分でマンションに戻ってくると、地下の駐輪場に自転車を止める。いつもどおり、ごみ集積場の前を通ってエレベーターホールに向かう途中で、一瞬、集積場の壁に貼ってある回収日の一覧表が目に入った。 可燃:月、木 びん、かん類:火 プラスチック類:水 ペットボトル:火、金 不燃その他:金 その一覧表の下端に貼り付けられていた手書きのメモに、俺の目は惹きつけられた。 「今月の人ごみは明朝03:00AMです」  慌ててエレベーターホールへと急いで、偶々停まっていた箱に飛び乗った。人ごみの日は不定期なのだが、丁度明日だなんて何てラッキーなんだ。道具もあるし、急げば何とか間に合うだろう。  自分の部屋に戻るや、俺は玲子が眠る寝室に向かった。 [了]
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