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「イリスッ!!」
噴き出ていた光の壁は消え、テアがイリスに駆け寄る。横たわる体を抱き上げながら呪文を何度も唱える。
「イリス……イリスお願いっ……息をして────」
視界がじわりと滲んで、僕の耳から音が消えていく。
この声は何かを伝えるためにあるんじゃない。
呪文を唱えるためだけに、あったんだ。
この手は未来を掴むためにあるんじゃない。
この瞬間、イリスが命をかけた、虹の石を掴むためだけにあったんだ。
足はただ無心で歩を進め、イリスの側に転がる赤い石を拾いあげた。
サミが垂れ下がったイリスの白い手を握りしめ、生ぬるい夜風が虚しく赤い髪を撫でた。
「行こう……」
見上げた空はまだ穏やかな星空で、儚い鈴の音に混じり、彼女の最期の祈りが聴こえた。
──In manus tuas commendo spiritum meum(あなたに私の魂を委ねる)
「僕が街を転移させる」
例えこの命が……消えるとしても。
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