虹の石

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「13年前、父と母はこの街のステラ祭りに訪れた帰り、大規模な土砂の崩落事故に巻き込まれたの」 「それって!」 サミが僕を見やる。 そんなのありえない。あの事故は水を引き込む工事での──── 「父と母と一緒に、この街の若い夫婦も崩落に巻き込まれた。だけど二人は、自分たちよりも先に、魔法を使って父と母を土砂の中から助けてくれたの」 「やっぱり……僕の父と母のことだ」 この街であの(・・)魔法が使えるのは、父さんと僕だけ。 「だけど……そのせいで彼らは死んでしまった」 「どういうこと?」 目を細めるテアの横で、僕は困惑していた。 なぜ父さんは魔法を使って、母さんと逃げなかったんだ? 「魔法には使用者の命を守る為に、制約があった。そうでしょ……ルネ」 「制約? なんだよそれ」 サミが眉を顰めて、僕に視線を向けた。 父さんと僕が使えるのは、対象物を転移(・・)させる魔法。 そして─── 「……魔法の使用条件は二つ。一つは転移の際に、対象物と同等の質量が必要なこと。そして、人間を転移できるのは、一度に二人まで……」 条件はクリアできていた。 事故現場には質量となる土砂が大量にあったはずだし、転移させたのはイリスのお父さんとお母さんの二人。 それなのにどうして…… 「母のお腹の中に……私がいたの」 「えっ」 「じゃあ、ルネのお父さんは……」 サミが目を見開き、テアの声が震える。 僕は呼吸を止めていた。 父さんは、知らずに三人を転移させてしまったんだ。 条件を超えての魔法は────死に繋がる。 「だから母は、私を産むためだけの命を残して、七色の光と残った命を全て結晶化させてこの泉に沈めた。せめてもの償いにと。いつか街の人の役に立つかもしれないと……」 「そんなことって……」 泣きそうなサミの声がくぐもって聞こえた。 膜を張った殻の中に閉じ込められたように、頭が、心が、現実を受け入れようとしない。 「ごめんなさいっ……ルネから……ご両親を奪ったのは私なの。だからずっと……のうのうと生きてる自分が、憎くて仕方なかった。だからアストラから旅人がやって来て、この街がもうすぐ消えてしまうと知った時、ようやく私が生きてきた意味を知ったの」 イリスは虹の石を胸元に当てると、何かを呟いた。途端に赤い光が石から四方へと噴き出る。 いや……違う。 石が、イリスから赤い光を吸い取っている。 「イリス! 何を!!」 サミが叫び、テアがイリスの元へと走り出した。 嫌な予感がする。空気が冷ややかに揺れる。 それなのに僕は。 動くことが出来なかった。
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