33人が本棚に入れています
本棚に追加
「13年前、父と母はこの街のステラ祭りに訪れた帰り、大規模な土砂の崩落事故に巻き込まれたの」
「それって!」
サミが僕を見やる。
そんなのありえない。あの事故は水を引き込む工事での────
「父と母と一緒に、この街の若い夫婦も崩落に巻き込まれた。だけど二人は、自分たちよりも先に、魔法を使って父と母を土砂の中から助けてくれたの」
「やっぱり……僕の父と母のことだ」
この街であの魔法が使えるのは、父さんと僕だけ。
「だけど……そのせいで彼らは死んでしまった」
「どういうこと?」
目を細めるテアの横で、僕は困惑していた。
なぜ父さんは魔法を使って、母さんと逃げなかったんだ?
「魔法には使用者の命を守る為に、制約があった。そうでしょ……ルネ」
「制約? なんだよそれ」
サミが眉を顰めて、僕に視線を向けた。
父さんと僕が使えるのは、対象物を転移させる魔法。
そして───
「……魔法の使用条件は二つ。一つは転移の際に、対象物と同等の質量が必要なこと。そして、人間を転移できるのは、一度に二人まで……」
条件はクリアできていた。
事故現場には質量となる土砂が大量にあったはずだし、転移させたのはイリスのお父さんとお母さんの二人。
それなのにどうして……
「母のお腹の中に……私がいたの」
「えっ」
「じゃあ、ルネのお父さんは……」
サミが目を見開き、テアの声が震える。
僕は呼吸を止めていた。
父さんは、知らずに三人を転移させてしまったんだ。
条件を超えての魔法は────死に繋がる。
「だから母は、私を産むためだけの命を残して、七色の光と残った命を全て結晶化させてこの泉に沈めた。せめてもの償いにと。いつか街の人の役に立つかもしれないと……」
「そんなことって……」
泣きそうなサミの声がくぐもって聞こえた。
膜を張った殻の中に閉じ込められたように、頭が、心が、現実を受け入れようとしない。
「ごめんなさいっ……ルネから……ご両親を奪ったのは私なの。だからずっと……のうのうと生きてる自分が、憎くて仕方なかった。だからアストラから旅人がやって来て、この街がもうすぐ消えてしまうと知った時、ようやく私が生きてきた意味を知ったの」
イリスは虹の石を胸元に当てると、何かを呟いた。途端に赤い光が石から四方へと噴き出る。
いや……違う。
石が、イリスから赤い光を吸い取っている。
「イリス! 何を!!」
サミが叫び、テアがイリスの元へと走り出した。
嫌な予感がする。空気が冷ややかに揺れる。
それなのに僕は。
動くことが出来なかった。
最初のコメントを投稿しよう!