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「なぜここに! ルネ、サミ! それにテアとリタまで!」
手燭を持ち上げながら、僕たちを見下ろすコポリ神父の顔が、今にも泣き出しそうなくらい、悲しそうだった。
「聴いてしまったんだね……」
僕たち一人一人の顔をゆっくり見わたしながら、司祭が着ていた白いアルバの胸元から、銀細工の懐中時計を取り出した。
「あぁ、もうこんな時間だ。さあ、ステラ祭りが始まるよ。みんなも行きなさい。そして、そのランタンにしっかり願いを込めて飛ばしておくれ」
白い眉を下げながら、テアの持つランタンを見つめ司祭がしゃがれた声で笑った。
「お祭りは楽しまないとね」
「でも!」
しゃがんでいたサミが立ち上がると、司祭はサミの頭を優しく撫でた。
「ステラ祭りが終わったら、もう一度ここにおいで。そして私たちの相談に乗ってくれないか」
僕たちは声を揃えて返事をする。礼拝の時とは違う、力の無い声だった。
「……ルネ」
教会の重厚な扉を開けると、湖のある丘からランタンが数個、夜空に浮かび上がり始めていた。
僕の服の裾を持つ、テアの白い手が震えている。
「行こう」
夜空に舞い上がるランタンを見つめたまま、僕はテアの手を覆うように握りしめた。
聖なる力が降りそそぐと言われる、満月の夜だと言うのに。僕とサミは顔を見合わせて、泣きそうな気持ちを必死に閉じ込めた。
この街は、本当に。
消えてしまうんだ。
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