33人が本棚に入れています
本棚に追加
カエルムの丘を上りながら、リタの手を引くサミが振り返る。
「やっぱりアストラの街から来た旅人が言ってたのは本当だったんだな」
数ヶ月前、僕たちの街に旅人がやって来た。
黒いベールを被った青い瞳の青年で、彼はアストラからやって来たと言う。
彼らは僕たちのような魔法は使えないけれど、街のほとんどの住人が星の動きを見て未来を予知出来るのだと、噂で聴いた事があった。
「そうだね……」
────この街はもうすぐ消えます
アストラの旅人が僕たちの街を去る日、悲壮な面持ちでそう告げた。
大半の大人たちは「失礼な旅人だ」と怒っていたけど、コポリ神父だけは真剣な顔だった。
「街が消えるって、どういう事なんだろ……」
だけど、どう消えてしまうのかまでは、旅人は教えてくれなかった。
そこまでは分からないのだろうか。小さな子たちだけがいなくなったのも、多分避難のためだろう。
「俺たちはどうすればいいんだ……」
サミが珍しく弱気な声を出すものだから、僕は慌ててサミの大きな背を叩く。妹のリタを不安にさせちゃだめだ。
「心配ないよ。僕たちは魔法が使えるんだから」
最初のコメントを投稿しよう!