第六章 不思議少女と呼ばれて

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 朱美が土ぼこりを払いながらようやく起き上がった。  「ところで松島、おまえつきあってる女はいるのか」  「いない。それがどうかしたか」  「あたしは強い男が好きなんだ。おまえに惚れちまったぜ」  朱美はそう言うと、取り巻きたちを連れて校舎の方へ去っていった。  「松島君、ありがとう」  「別にいい。それよりあんまり無茶するな」  「松島君も私をおかしいっていうの?」  「おれは別に竹本をおかしいなんて思ってない。綱紀粛正、いいじゃないか。おれは心の中で応援してた。たぶんおればっかじゃない。そういうやつは大勢いるさ。だから一人で闘うなってこと」  すぐに両手で顔を覆ったけど無駄だった。泣き顔をばっちり松島悟に見られてしまった。人前で泣ける女子を馬鹿にしていたくらいだから、私は人前で泣いたことなどない。そんな私がいつまでも泣いていた。松島悟はいつまでもそんな私のそばにいてくれた。  ようやく泣きやむと、途端に恥ずかしさが込み上げてきた。さっきのひとだまみたいにどこかへ消えてしまいたいと思った。  「もう幽霊部を廃部させようとするのはやめる」  「さっきのひとだまが見えたのか」  「見えてない。だからまだ幽霊の存在は信じてない。でも松島君の言葉は信じられる。だからこれまで通り幽霊部は活動をつづけてほしい」  「ありがとう。うれしいよ。おれもできる範囲で竹本に協力するから」  私は胸がいっぱいになってもう何一つ言葉を返すことができなかった。それでいいと思った。だって、たぶん言葉では表現できない絆がそのとき私たちをつないでいたから。私がそう信じていたから――。        #  「おれのおふくろ、朱美っていうんだけど……」  寿君が困ったような顔をしている。母親が元ヤンだったと知ってちょっとショックを受けてるみたいだ。  「でも寿君のお母さんじゃないんじゃない? 寿君の名字、香川じゃん」  「いや、おふくろの旧姓は花畑」  「それは……!」  蛍先輩も憂樹先輩も武田さんも息をのんだ。伝説は史実だったのかと感慨深げな表情だ。  寿君の方に関心が集中してよかった。だって、私の両親の名前は悟と夢雨なのだから。
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