第六章 不思議少女と呼ばれて

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 放課後の化学室。化学室は幽霊部の部室。幽霊部の部員は四人しかいないから四十人以上入れる化学室はちょっと広すぎる。  武田さんも寿君もまだ来ていない。化学室に入ると、部長の憂樹先輩だけが丸椅子に腰掛けて本を読んでいる。本はどうせ幽霊に関する本だろう。研究熱心な人だから。  六月のとても暑い日。ただそのとき私が汗をかいていたのは暑かったせいばかりではない。  「土曜日に幽霊の研究も兼ねて幽霊映画を見に行こうと思うんですが、先輩いっしょにどうですか?」  さりげなく誘ったつもりだけど、私の胸の中は今にも張り裂けそうだった。断られたら私の胸は本当に張り裂けていたことだろう。胸が張り裂けそうとよく言うけど、実際張り裂けたらどうなってしまうのかと不安になった。もちろん今度の土曜日が私の十六歳の誕生日だということは黙っていた。  先輩は私が渡した映画のパンフレットを静かに読んでいる。表を読み終わり、裏を読み始めた。丁寧に読んでいるということは、脈アリということでいいのだろうか?  全部読み終わったらしい。顔を上げた先輩と目が合った。こんななにげないことで私の胸はいっぱいになる。どれだけこの人のことが好きなんだろうと少し悔しくなる。先輩は私のことをただの部活の後輩としか思ってくれないのに。  「恋人が亡くなって幽霊になっても愛し合うことをやめないというのは純愛というかなんだか美しいね」  普通の人なら純愛とは取らずに異常だと感じるはずだ。先輩がそれを〈純愛〉とか〈美しい〉と感じるのは当然だ。その映画の主人公と同じく、先輩もいま幽霊を愛してる。そんな先輩だからこそ、この映画なら見たいと思ってくれるんじゃないかと思ったんだ。  「幽霊映画としてもおもしろそうだけど、主人公と幽霊の恋がどうなるか単純に興味があるね」  先輩は淡々とした口調。私は祈るような気持ちだった。心の中では手を合わせて泣きそうな顔で祈っていた。そのとき誰かに、  「悪魔に魂を売るならその願いを叶えてやろう」  と耳元でささやかれたら、私はその誘惑にあらがえなかったかもしれない。  「よし行こう」  「ほんとですか!」  「僕と麗子さんだけでなく、武田さんや寿君も誘って部員全員で見に行こう」
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