第六章 不思議少女と呼ばれて

4/21
5人が本棚に入れています
本棚に追加
/21ページ
 がっかりしたけどあきらめなかった。私はみんなで幽霊映画を見たいわけじゃない。先輩と二人で映画を見たいんだ。恋人同士ではないからそれはデートではないけど、どうしても誕生日の思い出を作りたかった。  私はまず武田さんに事情を話した。クラスメートでもある武田さんの名前は武田令子。私は松島麗子で、名前の発音が同じ。だからおたがい、〈武田さん〉〈松島さん〉と名字で呼び合っている。  「分かったよ。松島さんのために全力で協力するよ」  武田さんは、土曜日の映画鑑賞を誘ってきた憂樹先輩の申し出に二つ返事でOKした。この段階で都合が悪いと断ったら、  「それじゃあ日を変えよう」  という話になったら困るから。私の誕生日に先輩と映画を見ることに意味がある。いつでもいいわけじゃない。  武田さんは当日、待ち合わせ時間ギリギリで先輩にドタキャンの電話を入れることになっている。  あとは香川寿。寿君との話は予想通り武田さんみたいにすんなりとはいかなかった。香川寿は耳にはピアスの穴が空いてるし髪はうっすらと茶色い。真っ黒に日焼けしてるしサーファーなのかなって勝手に思っている。  「――ということで、私に協力してほしいんだけど」  「おれが麗子を好きなことを知ってるくせに、おれに麗子と憂樹さんをくっつける手伝いをしろってか?」  寿君は怒ってるようには見えない。あきれてるというか、どちらかというと面白がっているように見えた。  寿君は幽霊部の幽霊部員になりたくて、つまりサボりたいから幽霊部に入部したやる気のない同級生。恋愛の面でもいわゆるチャラ男で、私とは何から何まで水と油みたいに合わない隣のクラスの男子。  ある日私は、借金があるのに会社をリストラされて、失業したのを苦にして自殺した怒りっぽいおじさんの幽霊と知り合った。その人は草助さんといって、家族にも見捨てられたと絶望していた。でも、建てたばかりの家が人手に渡るのを阻止するために草助さんが自殺したと家族の人たちは知っていた。家族はおじさんに感謝していて、草助さんが生きているとき冷たく接したことを後悔していた。家族の本心を知って、草助さんは怒りを捨てて成仏することができた。  草助さんは実は寿君のお父さんだった。草助さんは成仏する直前、わたしのような真面目な女の子と交際して生き方を改めなさいと寿君に忠告した。寿君は草助さんの忠告に従った。私が憂樹先輩に片思いしてることを知ってるから強引なことはしてこないけど、私としては困ったことになったと内心ため息をついている。  「麗子を困らせる気はない。憂樹さんとデートして来ればいい」  思いのほかあっさりと寿君は引き下がった。二人で映画を見ようがどうせ私が先輩と恋人になれるわけないと見透かされてるようで、せっかく寿君が引き下がってくれたのにそれはそれでイラッとした。
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!