第六章 不思議少女と呼ばれて

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 土曜日、私は十六歳になった。  この日のための服は昨日買ったばかり。自分ではよく分からないから、ショップ店員のきれいなお姉さんに、  「デートで着る服なんです!」  と泣きついて、選んでくれたのをそのまま全部買った。三万円くらい払ったけど、実際着てみると派手でもなく地味でもなく、見た目だけはそれなりにかわいい女子に見える。あくまで見た目だけ。背伸びしすぎと指摘されたら、すいませんと謝るしかない。  「背伸びしすぎ!」  私を見るなりそう叫んだのは後藤未来。憂樹先輩よりさらに一歳年上の金髪のギャル。先輩の元カノで今は幽霊。憂樹先輩にたかる悪い虫を振り払うためと言って、私の部屋に棲み着いている。私に言わせれば、〈悪い虫〉は未来の方だ。  「麗子、勝負しよう」  「勝負?」  「そう。これからあたしは憂樹を誘惑する。憂樹が麗子に会いに来れば麗子の勝ち、来なければあたしの勝ち」  「そんな勝負したくない!」  という私の抗議は無視された。  頼んであったとおり、武田さんも寿君も待ち合わせ時間に待ち合わせ場所の池津駅前に現れなかった。現れなかったのは二人だけでなく、憂樹先輩も現れない。私は希望を捨てず先輩を待ち続けた。いくら待っても先輩は来ない。  私はこらえきれなくなり、しゃがみ込んで両手で顔を覆って、人目を忘れて迷子の子供みたいに泣いた。こんなところ未来に見られたらまたどれだけ馬鹿にされるか――  「馬鹿になんてしない」  見上げると未来がいた。  未来は私をけなさなかった。先輩は未来の誘惑に乗らなかった。先輩は未来を成仏させたいと言って、未来を激怒させた。  「あたしは憂樹の彼女でい続けたいんだ。成仏なんてしたくない!」  「僕が愛してるのは今でも未来だけだ。君が成仏するまで僕は誰も好きにならない」  「憂樹がほかの誰かのものになるのは嫌だ。あたしは絶対成仏なんてするもんか!」  つまり、未来も私もフラれてしまったということ。それからまもなく憂樹先輩がやって来た。私は何も知らない振りをして、先輩と映画館に向かった。恋人同士でないのは分かってる。未来さえ成仏させられれば私にも希望があると自分に言い聞かせた。  馬鹿だなと思った。でも好きになったものは仕方ない。初めて恋をしたけど、こんなにつらいものだとは思わなかった。
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