第六章 不思議少女と呼ばれて

6/21
5人が本棚に入れています
本棚に追加
/21ページ
 「来ないかと思った」  一難去ってまた一難。映画館のロビーに着くと、寿君が待ち構えていた。ほっとした表情。  〈なんで!〉  と心の中で叫んだ私の耳元で、寿君がささやいた。  「おれは来ないとは言ってないぜ。腹立てんな。麗子と憂樹さんがこれ以上仲良くならないように見張るだけだ」  何を言ってるのか分からない。めちゃくちゃ腹が立つんですけど!  私が呆然となってるうちに寿君がチケットを三人分買ってきた。三人並びで、私が真ん中で、私の左側が寿君、右側が憂樹先輩。自分を真ん中にして私と憂樹先輩を隣り合わせにならないようにするほど、寿君も鬼ではなかったようだ。  私たち三人の周りには誰もいない。離れた場所にぽつぽつとカップルたちが座っている。カップルじゃないのは私たちだけみたいだった。  「麗子、その服よく似合うじゃねえか」  寿君におせじを言われたがそんなことでは許さない。そもそも私は先輩に褒めてほしかったのに!  照明が消され映画が始まった。実は私はこの映画の結末を知っている。主人公の男の子と恋人だったけど死んで幽霊になった女の子は、結局黙って主人公のもとを去る。やがて主人公の前に別の生きてる女の子が現れて恋の予感を主人公が感じはじめたところでエンドとなる。  憂樹先輩がそれを見て、幽霊の未来の呪縛から解き放たれてくれたら。この映画を選んだのはそういう意図もあった。  スクリーンの中で主人公のカケルが幽霊のアユムの手を握る。雨音だけが二人を包む。アユムの命を奪った世界は残酷だけど、世界はこのときだけ二人に優しくほほえんでいた――。  とそのとき、アユムの手のひらのように、膝の上に置かれていた私の手も誰かの手のひらに包まれた。  包まれたのは私の右手。私の右側に座っているのは憂樹先輩。左側に座る寿君は左手にポップコーンのカゴを持って、右手でボリボリ食べている。私の右手を包む手は寿君のものではない。かといって怖くて右側を見ることができない。私は呼吸以外の動きを止めた。ちょっとでも動いた瞬間に私の右手を包む手も離れていく気がして。
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!