第六章 不思議少女と呼ばれて

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第六章 不思議少女と呼ばれて

 表面だけのつきあいの友達ならいるけど、親友といえる友達はいない。ましてや恋人なんて。中学生や高校生で、もう誰かの恋人になっている人がいる。周りを見ればそんな人はいくらでも目に入るのに、私と同じ年齢で恋人のいる人なんて都市伝説なんだと思い込もうとしていた。ただの現実逃避。私は目を閉じて耳をふさいでいた。そう、あの日、君と出逢うまでは。  憂樹先輩と出会ったのは三月の袖野高校の合格発表日。第一志望の伊井音高校にすでに合格していた。袖野高校は滑り止めでしかなかったから、別に合格発表を見に行かなくてもよかった。友達に見に行こうと誘われて、  「私はもう行きたい学校の合格が決まってるから」  なんて言って断ったら嫌われそうだから、見に行くことにした。  私は本音で友達づきあいをしたことがなかった。嫌われたくないから相手の求めるとおりにする。たぶん誰に聞いてもそんなの友達づきあいじゃないと言われそうだ。分かってるけど、私にはそういうつきあいの友達しかいなかった。そういう友達しかいなかったけど、一人も友達がいないよりは全然マシだと自分に言い聞かせていた。  当たり前だけど、私は袖野高校に合格していた。貼り出された合格者番号の羅列の中の自分の番号の辺りを撮影して家で待ってる母に送ってやろうと思ったとき、合格したのに私の顔は真っ青になった。スマホが見つからなかった。ずっと前からねだっていて伊井音高校の合格祝いでやっと買ってもらったスマホだった。  友達と別れて一人で袖野高校の敷地中を走り回って探したけど見つからない。何十分も探し回っているうちに、受験生は誰もいなくなっていた。合格者番号が貼り出されたボードにもたれかかって座り、気がついたら涙が流れ出していた。  「大丈夫?」  知らない男子の声。大きな手がやさしく私の頭をなでる。私は相変わらずうつむいて顔を手で覆っていた。泣いていたのを見られたのが恥ずかしくて顔を上げることができない。  「つらいよね」  どうやら私は不合格だったために泣いていると誤解されたらしい。ショックだったことに変わりはない。私は何も答えず、優しい手のひらが私の頭をなでるのをそのままにしておいた。  その人は私と違って、第一志望の伊井音高校に不合格だったために滑り止めの袖野高校に入学したという。  「滑り止めで受けて合格しただけの袖野高校だけど、今はこの学校に入ってよかったと思ってる。居心地がいいんだ。きっと相性がいいんだろうね。でも、相性なんてのは入ってみないと分からない。今はもう、袖野高校の生徒じゃない自分を想像することもできないよ」  私が顔を上げたとき、その人はもういなくなっていた。結局、袖野高校のどこがいいのかさっぱり分からなかったけど、四月、私は袖野高校に入学した。
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