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「そうですか。自殺ですか」 警察署の小さめの会議室の椅子に座り、沢村は牛若警部の方を見ながら、溜息をついた。 牛若は、事件がほぼ解決したということで、これまで捜査協力してきた沢村にも義理堅く経過を知らせておこうと思い、それで沢村を署まで呼び出したのだ。 「鑑識の方でも自殺でほぼ間違いないと見ているようです。自白を仄めかす遺書もありましたし、どうやら被疑者死亡による書類送検となり、日立敦子は不起訴ということで終わりそうです」 牛若は、いささか肩の荷が降りたような顔つきだったが、それは他にも難しい事件を色々抱えているからだろう。 被疑者死亡による不起訴で終了とは言え、これで警察サイドの事件捜査は終了となるのだから、他の事件に本腰が入れられる。 沢村は牛若から、特別に敦子が残した遺書を見せてもらった。 それを一通り読んでから、沢村は牛若警部と少し話し込んだ後、警察署を後にした。 もはや他に話すことなど何もなかったからである。 * しばらくして沢村は、近松京一が勤務する大学の研究室を訪ねた。 近松が休憩時間に入るまで、沢村は近松をロビーで待っていたが、30分ほどすると、白衣を着た近松が面倒臭そうな顔をしてやって来た。 「すいません、お忙しいところ」 沢村は恭しく頭を下げて営業スマイルを見せた。 「何ですか?私の疑いは晴れたのに、警察の次はマスコミですか。事件のことなら全て警察で話しましたが?」 近松は不貞腐れたような顔をしてそう言った。 「申し訳ありません。ただちょっとだけお話したいことが。あのカンニングの件とそれから…」 「カ、カンニングって、一体何ですか!」 近松は激昂して大声を上げた。 「まあまあ、そう興奮しないで…」 「いい加減にしてほしいものですな!」 近松の興奮は中々収まらなかった。 それからしばらく、沢村と近松は話し込んだが、しかし数分が過ぎた頃のことだった。 近松のところに、いきなり椿刑事と吉武刑事が厳しい表情でつかつかとやって来たので、二人は驚いた。 「近松京一さん。ちょっとまたお話をお聞きしたいのですが」 椿刑事は有無を言わせぬ高圧的な言い方でそう告げながら、露骨に近松を睨みつけた。 近松は、椿刑事のあまりの形相に怖気づいたように、少しの間、黙って椿と吉武を見ていたが、すぐに「わ、わかりました」とうなだれながら言うと、刑事二人に同行した。 椿と吉武は、沢村を置いて、近松をさっさと連行して行った。 沢村はしばらくの間、驚きの表情で、去って行く刑事二人と近松の後ろ姿を眺めていたが、すぐに思案を巡らせるような顔つきに変わり、鋭い視線を向けた。
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