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「うーむ、似通ってますね。思っていた以上に」
沢村は、生前、被害者の日立が書いていた日記を、牛若警部から受け取って一読し、ニヤつきながらそう口にした。
「遺体のそばに置かれていた、石川啄木の「ローマ字日記」と、ですね?」
牛若警部は顎に手を当てて沢村を見た。
「ええ。まあ似せて書いているところもあるんですけどね。たとえばわざわざローマ字で表記しているところや、自分のことを「予」などと表現しているところとか。今時、自分のことをそんな昔の殿様みたいな言い方しないでしょ」
「そうですね」
「しかし金を借りたり、奥さんと別居になったり、という、ここに書かれてある内容はほぼ事実なようです」
「ええ。こちらでも、ガイシャの人間関係や周辺の事情について色々洗いましたが、ここに出てくる話の裏はだいたい取れましたよ」
「そうですか」
「そうなると、怪しいのは、この日記の中に出てくる、ガイシャから嫌な目に遭っていた人物ということになりますな」
「別居中の奥さんとか、金を貸しているけど、まるで返済してもらえない友人の学者が怪しいという話になりますな」
「ええ。ですからさっそく重要参考人として事情聴取しようと考えています」
牛若警部は仕事が早い。
だから数日内に事情聴取は行われるだろうなと沢村は思った。
玲子は沢村から渡された日立の日記を横で読みながら、うんざりした気分になっていた。
こんなクズと自分が一緒に仕事していたとは…
啄木の「ローマ字日記」にも少し呆れ返ったが、まだあちらには肩肘張らずに書かれた日記の楽しさがあった。
だが、それを真似て、借金生活や浮気、仕事のサボり、くだらない愚痴をわざわざローマ字で書き、文体や言葉遣いまで真似て、それらを正当化して悦に入っている日立の日記は、ダサくてたまらなかった。
ついつい、浮気に耐えている奥さんや、お金を貸しても返してもらえない友人に同情してしまう。
しかし日立は殺されているのだ。
その殺人の最重要容疑者として、これから日立の奥さんや金を貸していた友人に疑惑の目を向けなくてはならないことが玲子は少し辛かった。
どちらかが犯人である確率が高いと思ったからだ。
他に若い水商売の女性との浮気についても、日記には、啄木の真似をして性的なことまで細かく記されていたが、利害関係や怨恨の線は薄いものの、こちらにも痴情のもつれの線があるので、注意が必要だと玲子は思った。
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