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牛若警部の仕事は早く、早速、日立の日記の中に登場する、別居中の妻・敦子と、日立に金を貸している友人で学者の近松京一、それと日立の浮気相手のキャバ嬢・安西遥が参考人として警察に呼ばれた。
牛若警部は自ら尋問役に乗り出し、3人の事情聴取を行なった。
まずは、日立が殺された死亡推定時刻における3人のアリバイ確認を行なったが、しかし、誰一人アリバイが明確に存在する者はいなかった。
敦子は、その時間、日立との別居後、帰省している実家に居たというが、その日は敦子と同居中の父母は町内の寄り合いに行っていて、実家の家には敦子が一人で居ただけなので、アリバイを証明してくれる第三者がいなかった。
「あなた、本当に一人で部屋にいたんですか?」
「本当です。だいたい私がどうして別居中とは言え、夫を殺さなきゃならないんですか?」
「日立さんの日記によると、かなり派手に浮気をされていたようですのでね。所謂、怨恨の線ってやつです。あなた、別居する時、随分派手に喧嘩されたようですね、旦那さんと。ご近所からの目撃証言があります」
「そ、そりゃ確かに、あまりにあの人の浮気が酷いんで。喧嘩はしましたけど…でも別に怨恨だなんて…」
「いずれにしても、日立さんの死亡推定時刻にアリバイがあるとは言えませんな」
「…。」
近松京一は、大学の研究室に籠りきりだったようだが、その日は他の研究者や教授もおらず、近松一人が研究室のパソコンで論文を書いていたということなので、こちらもアリバイ足り得ない。
「確かに私一人で残っていただけだから、証人はいませんが、私が研究室に残っていたというのは間違いありませんよ」
「ただ、証人がいないんじゃね。申し訳ないですが、アリバイがあるとは言い難いですな」
「だいたい私が、何で日立君を殺さなきゃならないんですか?親友だと思っていた男ですよ」
「しかしあなたは、日立さんにかなりのお金を貸している。しかもそのほとんどが返済されていない。日立さんの日記によると、借金の返済を巡って口論になったこともあったようですね」
「そ、そりゃ言い合いはしましたよ。全く返してくれないんでね。でもだからって殺人なんて…。あの、私は、日立君を援助するつもりでお金を貸してただけなんです」
「なのに、お金の貸し借りの件で口論をされたわけだ。援助の気持ちの人が貸した金のことで口論ですか?」
「い、いや、それは…。私はお気に入りの時計を質に入れてまでお金を貸してましたから…返済もちゃんとしないで、キャバクラ通いにお金を注ぎ込んでる話を本人から聞いて…つい…。それならちゃんと返してほしいと思って口論になっただけです」
「いや、別にそれは当然のリアクションだと思いますよ。あなたが悪いわけじゃないです。しかし、その後、口論の相手が殺されてるわけですからね」
「私は殺人なんてやってませんよ!」
安西遥は、その日の夜、たまたま勤め先のキャバクラを体調不良で休んでおり、こちらもマンションで一人、ベッドの中でうなされていたと言う。
またしてもアリバイが成立しない。
「だから!私と了君はラブラブなのに、何で殺したりするのよ。刑事さん、メッチャイケメンなのに、悪いけどマジでヤバくないですか?」
「一応、関係者全員にアリバイを伺ってるだけですよ」
「あ、それ刑事ドラマとかの鉄板じゃん、ウケる」
「こっちは本物の刑事ですが、何か?あなたは普通にアリバイが成立しないわけです」
「は?だからって、私が殺したとかないでしょ!マジでムカつく!こっちは熱出してヤバいくらい死んでただけだっつーの。弁護士呼んでくれます?」
「誰も殺したなんて言ってませんよ。ただあなたの場合、被害者以外にも交際している男性がいますよね。その辺りのことでトラブルにでもなってないかと思って」
「なってねーし。だいたい了君は他の男のことなんか知らないし。トラブるわけねーし」
「しかしあなた、もう一人の交際相手はかなりのお金持ちなのに、何でまた被害者のような借金だらけの男と付き合ってたんですか?被害者の日記によると、かなり深い関係のようですが」
「そんなの関係ないっしょ。借金してでも私に会いに来る客なんて、普通によくいますよ。でも何?私とヤッたことの記録とか了君日記につけてたのってマジすか?なんかウケる、マジキモいんですけど」
今のところ、通常と違う行動を自ら取っているのは、安西遥だけだから、一番怪しいのは遥ということになる。
しかし動機の面では一番弱い。
被害者の死亡推定時刻には、本当に体調不良で自室に籠っていただけかもしれないし、何も断定出来なかった。
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