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「私が近松さんと付き合っているなんて、そんなのデタラメですよ!」 日立の妻・敦子は、牛若警部に真っ向から反論した。 沢村からの連絡を受けて、被害者のスマホに敦子と近松の仲睦まじいツーショット画像が収められているという情報を聞いた牛若警部は、さっそく日立の遺留品の中のスマホを調べさせた。 しかしスマホには、そのような画像は無かった。 そこでさらに、画像が何者かに消された可能性はないか調べさせたところ、やはり、その画像は消去されていた。 スマホ会社の協力を得て、画像を復元させると、確かにそこには近松と敦子の仲睦まじそうなツーショットが写っていた。 「しかし、この画像を見てください。あなたと近松さんが写っています。どう見てもかなり仲睦まじいように見えますがね」 牛若警部は被害者の遺留品のスマホを見せて、敦子に詰め寄った。 敦子は画像を見るなり、バツの悪そうな顔をしたが、すぐに反論した。 「そ、そりゃ近松さんのことは、主人の友人ですし、よく存じ上げていますよ。借金の返済を待ってくれるようお願いしたこともあるんです。近松さんは心の広い方で、快く返済を待つと言ってくださいました」 「つまり、好人物である近松さんにかなり好意を抱いていたということですよね」 「い、いや、嫌いではありませんでしたけど、でもそれは恋愛感情などではありません!」 「しかしねえ、スマホに画像が残ってなくて、消去されていたことが引っかかるんですよね。それはやはり疚しい画像だったから消去されたんじゃないかと」 「私が消去したと言うんですか?私は知りません!」 「被害者ご本人が自ら消去したとは考えにくいんですよね」 「でも私じゃありません!」 牛若警部は、全否定する敦子を黙って見つめながら、難しい顔をした。 * 「恋愛関係なんて、そんな。敦子さんは親友の奥さんなんですよ」 近松は、牛若警部にスマホのツーショット画像を見せられると、微笑みながらすぐにそう言った。 「しかし随分お二人、仲良さそうに見えますがね」 「別に仲悪いわけじゃないですよ。しかし変な関係じゃありません」 近松は余裕すら感じられる笑顔でそう返答した。 日立が撮ったスマホの写真は、明らかに隠し撮りしたものに見える。 おそらく、隣の部屋からズームして撮ったものだろう。 だから二人の無防備な姿が写っていると見ていいと牛若警部は思った。 二人とも全否定しているが、この二人が恋愛関係にあるとすると、共謀して迷惑な存在の日立を殺した可能性も出てくる。 夫の浮気や借金に泣かされる妻と、その夫に金を貸していた友人がデキていて、それで夫が殺されたとなると、そういう線も有り得ないことはない。 いや寧ろ、かなり有力な線ではないかと牛若警部は思った。 その時、取調室の扉が開き、牛若の部下である椿刑事が入ってきた。 「警部」 椿刑事は小声でそう囁くと、すぐに牛若の耳元に話し始めた。 「何?!」 不意に椿の言葉に、牛若警部が色めき立った。 「本当か?」 「はい」 牛若警部はすかさず正面に座る近松の方に目を向けた。 「家宅捜査令状を取って、あなたのマンションの部屋を捜索させていただきました。部屋には、ポスター大に引き伸ばされた敦子さんの写真が、押入れの奥に隠されていましたよ。どうやら、ついこの間までこのポスターと同サイズのものが貼ってあったとおぼしき壁の跡もありました。そしてあなたのパソコンから、敦子さんを隠し撮りした画像を相当数復元しました」 牛若警部がそう告げると、それまで余裕の笑みすら浮かべていた近松の表情が、歴然と焦りと動揺に満ちた顔付きに変わった。 「あなた、敦子さんのストーカーだったんですね」 牛若警部がそう言うと、近松は崩れるように顔を伏せて黙り込んだ。
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