14人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
翌日の日曜日は特に予定が無かったこともあり、『満月荘』というものに興味があった公一は、行ってみることにした。
所在地の近くの、私鉄『月波駅』までは、すんなり行けたのだが、そこから何故か道に迷ってしまい……
ようやくたどり着いた時、時刻は1時間を経過していた。
住宅街から離れ、高い塀に囲まれた、怪談ドラマに出てきそうなアパートで、ほのかな不気味さがあった。
門の看板はそうとう古く、文字の判読に苦労するほどだった。
アパート外観の壁は黒っぽく、あまり見たことのない緑色の植物のツルが、その全体に行き渡っている感じで……
月の情景に例えるなら、新月に雲がかかっている……とでも言えそうだった。
そして、人の気配は皆無だった。
公一が迷いながら、薄暗い玄関に一歩、足を入れると、後ろから、
「おやおや」
公一が「えっ?」と振り向くと、服装は違ったがあの時の初老の男だった。
その男は怪訝そうに、
「あの……名刺に書いてあったはずですがね……。水曜日にと……」
「えー、それは分かってたんですが……どうしても一度見ておきたくなりまして……」
「なるほど……。下見ですか……。しかし、かなり迷われたでしょう?」
と男は笑った。
「えー、かなり……。だから下見に来て正解だったな……と思いました」
公一は苦笑した。
すると、男は半ば真顔になって、
「いえいえ。ここは奇妙なアパートでしてね。夜にこられた方が迷わなかったんですよ」
「えっ? へー……そうなんですか……」
公一は一瞬、もう帰ろうか……と思ったが、少しは興味があったので、中も見ることにした。
無論、男が先頭に立った。
「では、ご案内しましょう。……とは言っても、普通の中古アパートですがね……」
と男は、また笑ってから歩を進めた。
最初のコメントを投稿しよう!