自信のつく薬は男に飲ませるな

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とも子とれい子の会話をそれとなく聞いていたサチとマユも、れい子の意外な発言に疑問を持つ。 「よかったって、どういうこと?」「おめでとうって」サチとマユがそれぞれ聞く。 「それより・・・」れい子がささやく。 「とも子、逃げるな」みのるが叫びながらやってくる。 そのとき、れい子はみのるのところに飛びかかり、その体を押さえつけた。 みのるはそれをほどこうとする。 「す、すごい力ね。みのる君はやっぱり男の子よ。みんなも手伝って、早く」 れい子の発言を聞き、サチとマユも近寄ってきて、みのるの体を押さえつけようとする。 「何でみんなで邪魔をする」 みのるの言動に対し、れい子が語る。 「みのる君。もしあなたに理性があるんだったら、少し話し合いをしてみたほうがいいんじゃないかしら」 これを聞いて、みのるは女子達を押し返そうとするのをやめ、そして近くの椅子に座った。 3人の女子もやれやれといった感じになり、れい子は自分の席に、他の2人はその辺の椅子に座った。とも子もとりあえず同じように座った。 「まず、みのる君、あなた、とも子のことをどう思ってるの」れい子が質問する。 みのるがそれに答える。 「ああ、大好きだよ。ずっと前から。いつもおれに世話をかけてくれてるし。おれだけに。だからおれ、とも子から離れられないんだよ。とも子はおれだけのものだ。他の誰にも渡したくないよ」 「あれ、この前と違うね」とサチ。「そうよね」とマユ。 「もしや、それ、ほれ薬みたいになる副作用があるの?」とも子が聞く。 「いや違うわよ。ずっと前から好きって言ってたでしょ今。ほれ薬だったら飲んでから効くはずよ」れい子が反論する。 「それじゃあ、どういうこと?」 「あのね」とも子の疑問に対し、れい子が説明を始める。 「男の人はね、自信がつくと、自分が一番好きな女の人を自分のものにしようとするの。他の何を差し置いても、まずはそれを実行しようとするのよ。本当かですって?実験で確認されてるのよ。姉の実験場だけでなくあちこちで。あるとき男性に薬を飲ませる実験が行なわれたの。そしたら、実験場を抜け出してどこかへ行って、しばらくして戻ってきたの。そのとき、女の人を連れてきてたの。その女の人、男性の体に抱きついて離れないの。男の人、前から好きだった女の人をようやく奪い取った。女の人、この人に奪われてしあわせ~」 「や~何それ。何か怖~い」サチは目をそむけるような動作をして叫ぶ。 「でも私にはわかる気がする」マユは考える。「女の人は男の人に強く攻められたりだまされたりして関係を築いていくというか。私だって怖いけどちょっと憧れるというか」 「だけどそんな痴漢まがいのことをしたりされたりするのなんて許せないわ。だから男の人に飲ませてはいけないと注意書きがされてるのね」 「とも子、問題はそこじゃないのよ。あの実験のあとどうなったかというと、研究員の女の人達がつらい思いをしたのよ。わかる?」 「うーん何となく。何というか、痴漢やセクハラって、されるだけでなく見てるほうもいやな思いをするというか」「どうせなら自分にしてほしいという気持ちになる」「マユ、本気なの?」「男の人は不美人を相手にしないし」 「2人とも、もっとロマンチックに。痴漢とか言わずに。告白と」 「そうか、ヘタな告白が痴漢なんだ、れい子」 「いや告白には上手もヘタもないのよ、サチ。つまりあんた達が言うヘタな告白で男性が女性を奪うのも有りなのよ」 「うーん、どっちが正しいんだろう」 「わかんないよ、サチ。だけど、男の人がマンガやアニメの人物にほれたらどうなるんかな」 「たぶん大丈夫だよ、マユ。それよりアイドルのような有名人だったら大変じゃないかな」 「そうよ。アイドルが襲われて大ごとになるわよ。特にイベントの最中にそれやられたら警戒がもっと厳しくなってファンとの溝が深くなっていくわよね」 「2人とも。確かに正論だけど。それよりとも子さん。あなたがみのる君に飲ませたとき、場合によっては異なる結果になることも考えられるってこと。わかる?」 「あっそうか。みのる君が他に好きな人がいたらそっちのほうに行ってしまうわね。そうなったらとも子、つらい思いをするわよね」 「だけど結果はとも子のほうに行った。つまり、好きな人に薬を飲ませたら、自分のほうにやってきた。何か素敵だわ」 「そうよ。第三者のところに行ってしまってつらい思いをしたくない。だからあの注意書きがあるのよ。だけど逆に自分のところに来るのはそれはものすごく理想的なことなのよ。おめでたいことなのよ、とも子。ああこれで、お姉様に素敵なレポートを提出できるわ。過程はともかく結果的には」 「よかったわね、れい子」「そうよね、サチ」 「そういうわけで、私達、帰るわ、人の恋路を邪魔するわけにはいかないし。それじゃ」 れい子は鞄を抱えて教室を出た。 「お先に」「さよなら」サチとマユも同じように去っていった。 「もう、勝手なことばかり言って。何が上手な告白、ヘタな告白よ。みのる、ずっと黙ってたけど話は聞いてたよね。この際私からも言うわ。好きよ。大好き。これでいいでしょ。私には上手な告白をしてね」
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