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第二話 動き出すストーカー
「なあなあ、これからどうする?」
「家に帰ってモンパンする」
放課後なんて別に誰かと遊ぶわけでもないし、やることと言ったらゲームくらいしかないだろう
「まったくこれだから陰キャは」
俺はその三加和の呆れた言葉を
ちくわ耳で聞き流した
あれから、俺は伊名波さんに声すらもかけることが出来ていない。俺は誰も好きになってはいけない。中学のあの頃からずっとそう思っていた。たとえ誰かを好きになってもどうせその人を傷つけてしまうから。
「で?お前どうすんだよ」
「何が?」
三加和はいつものニヤ顔とは違い、まるで小学生のようにキラキラとした笑顔で俺を見て
「部活だよ! お前中学の帰宅部だったんだし、流石に部活入れよ〜?」
西湘学園には様々な部活がある。
中には柄崎愛好会など変わったヤツもある。柄崎というのは柄崎 千巻。この学校の生徒会長だ。
頭脳明晰、容姿端麗、おまけにスポーツ万能と来た。
そんなお嬢様の愛好会があるのも、この学校では不思議じゃない。
「ん〜まだ考えてないな。
三加和、お前はどこに入るんだ?」
「もちろん…… ダンス部だ!!」
腰に手を当て、顎を斜め上に上げたその姿は
まるでどこぞの王様だ
「ダンス部?意外だな。
お前中学の頃サッカー部じゃなかったか?
てかお前ダンスできんの?」
「九条よ…俺を舐めるな!!確かに中学の頃はサッカー部だったが、ダンスもできるのだ!!この俺様ならな!!ハッハッハ〜!」
「やっぱりこのウザさ、変わってないな…」
「あ〜あと伊名波さんだけどな、文芸部に入ってるらしいぜ。興味あるなら寄ってみれば?
じゃ、俺はここで」
淡々と話を進めると、三加和は部活に行ってしまった
「文芸部…」
正直、部活なんてこれっぽっちも興味がない。人間関係とか疲れそうだし、何より面倒くさそうだから。
俺は絶対部活になんて入らない!!────
「とは言ったものの……来てしまった。あいつの言葉に惑わされるとは、恥ずかしい……あっ。」
視線を向けた先には、まるで鉱山の中でダイヤモンドを見つけた時のように輝いている伊名波さんがいた
「……っ!」
話しかける勇気も自信もない俺には見てることしか……いや!! 俺はこの高校生活で変わるんだ!! そしてあのあだ名で呼んだやつを驚かせてやる!!
「あ…あの! 」
「……わ、わたし? 」
本を読むのに相当集中していたのだろう。
大きな瞳をこれでもかと開き、まっすぐ俺の顔を見る
「はい! あの、文芸部に入りたいんですけど。」
「あ、はい。じゃあ入部届けはあるかな。」
話せた! 中学生以来、女子と全くの無縁だった俺がこうして伊名波さんと話せてる!! その事実だけが本当に嬉しくて涙が出そうだった。
「はい。じゃあ顧問の先生に伝えておくね。
でも何で文芸部なんかに入ろうと思ったの?
私以外に部員いないのに。」
「それは…。特に理由はありませんが。」
理由なんてない、伊名波さんと一緒に居られればそれでいいのだ
「そっか。」
それから俺の、いや俺らの高校生活が始まった。
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