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「ふふふっ、ほんと? うれしいな」
水やりはここまでだ。この黄色い花が最後になる。もうじょうろの中は空っぽになった。
「お水があると元気になれるんだね。お花さん、そんなにお水っておいしい?」
黄色い大輪の花が答えた。
「水? おいしいよ。だから毎日元気になれるの」
「そうなんだあ。やっぱりわたしはパンもほしいかな……」
「人間はそうだろうね。でも私たちだって、水だけで生きてるわけじゃないよ?」
え? とリルはびっくりした顔をした。「そうなの?」
「土から栄養をもらっているんだよ。言い換えると、元気の源かな。それがリルちゃんたちにとってのパンと同じものかな」
へえーとリルは目を丸くしたままうなずいた。水だけじゃなくて土からも。そして光、ときには風も、生き物すべてにとって大事なんだよ……と、おばあちゃんも言ってたっけ。
「マーミおばあちゃんも言ってた! 水も光も風も、その前に土も大事なんだって」
「その通りだよ、リルちゃん」
黄色の花はちょっと口を閉ざしていたかのように見えた……実際に花に口があるわけではなく、リルはそう感じたのだった。そして、後から出た声は、どこか慎重な低い声に思えた。
「あのさ、リルちゃん」
ちょっと驚いた。元気なお花さんが、なんだか突然真剣な声になっている。
「どうしたの?」「なんていうかさ……」
お花さんが困っている……? リルはそんな様子を感じ取った。花が少し下に傾いている。
「最近ね、お水の味が変わったの」
「え? お水の味? おいしくないの?」
うーんと黄色い花はうなった、考えこんでいるようだ。
「たしかに前の方がおいしかった」
こう答えたのはパンジーたち。パンジーたちがずばり言うと、黄色の花も大きく頷くように「だよね」と賛成した。
「そうなの? 気づかなかった」まさか知らなかったのはリルだけだろうか?
水の味がおいしくなくなった。なんでだろう。
「どうしてかな……?」
「よっ! また変なやつがいる!」
返ってきた声はパンジーでも黄色い花でもなかった。リルにとって耳になれた声。はあとため息をつき、顔をあげ、辺りを見回す。見つけた。リルの右手側、畑を囲う木の柵の外にリルと同年代くらいの男の子が笑っている。
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