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それから各々仕事を片付けると、またパブレストランに行って昼過ぎから打ち上げをした。
誰もが「モーニンググローリー見れずに終わったらどうしよう」という不安から開放されて、あきらかにホッとしていた。やっと仕事が終わったという気になれたと言って良い。
皆かなり飲んでいる。とくに神原は、その細い体のどこに入るんだというくらい飲んで、しかも顔色が変わらない。怖い。
インターバルをはさみつつも、気付けばあたりは暗くなって、日本とは反対側が太った三日月が沈む頃になった。さすがに部屋に戻ろうということになって、お会計を済ませてホテルに歩き出す。
「はいっここで〜大ニュースー!!!」
一番後ろを歩いていたぐでんぐでんのカメ田が、道端で大きな声をあげた。その他みな、大してニュースでも無いんでしょ、という雰囲気でとくに振り返りもしない。
「俺はぁ、鶴野さんとぉ、いや、真さんとぉ、再婚しまっす!!!」
「………えぇっっ!??」
一同、足を止め振り返る。ほんとに大ニュースだった。水野はいっきに酔いが覚めるほど驚いたが、隣の麻衣のほうがはるかに驚いていた。麻衣も知らなかったのか。
鶴野マネが若干気まずそうに、でも照れながらカメ田に寄り添う。
「麻衣、言ってなくてごめん。あのね、カメ田さんがね、」
「鶴野さぁんっ!!!」
麻衣が鶴野マネの胸に飛び込んで抱きついた。
「ほんとにほんとにほんとに、おめでとうございます!!私……嬉しい!」
酔っているのか、麻衣が鶴野マネの肩に頭をぐりぐりしながら祝福している。
(鶴野マネが羨ましいんですけど。)
水野もそこそこ酔っているのか、邪な考えが頭をよぎる。
「それでね、麻衣にお願いなんだけど……」
ゆっくりと皆で歩き出す。もうホテルはすぐそこだ。
「今日で最後だから、部屋チェンジして良い?」
………は?
「良いですよぉそれくらい。お2人で仲良くしてくださいぃぃ!」
ハイテンションな麻衣が何とも無責任な発言をしている。意味わかってるのか?
「んじゃ、水野さん、荷造りして。」
「いや、ちょ、え?」
鶴野マネが麻衣と同室の部屋からこっちに来て、俺がカメ田と同室の部屋から出て行って、…それで?
気付けば、水野は荷物を放り出されて、部屋の外にいた。同じく荷造りをした鶴野マネが、水野がもといた部屋に入ってドアを閉めようとした時、さすがに腕を入れて抵抗した。
「いやちょっとマズいですって!一応、勤務中でしょ!」
真面目な鶴野マネに一番響きそうな言葉を選んだ。しかし鶴野は眉ひとつ動かさず、顔に笑いを貼り付けている。
「うちの会社も働き方改革なのよー、仕事終わったらプライベート大事にしなきゃね?」
それはわかるが、頭がおかしい。自分の担当のタレントのスキャンダルをわざわざ作るか、普通。
「麻衣と俺が同室は、さすがにマズいですって!」
必死にドアを開こうとするが、なかなかてごわい。
「ここまで来て何言ってるの?貴方、遠くに行くんでしょ。麻衣とちゃんと話してね。じゃ。」
こともあろうに腿を蹴り飛ばされた。ドアが閉まる。鍵の閉まる音も聞こえた。絶望だ。
「……俺らは普通に部屋帰ります。こっちの部屋、来ないでください。」
中庭で面白そうに眺めていた神原が、もうほぼ寝ている鍵谷の肩を担ぎながら部屋に帰って行く。おいおい、この現場の風紀はどうなってんだ……。
雑に荷造りされた自分の荷物を引き摺りながら、既に麻衣が入って行った部屋のドアを恐る恐る開ける。見ると、麻衣はそのままの格好で既にベッドに寝ていた。
(………。いやいやいや。)
必死に、理性を呼び起こす。まず、酔いを覚まさなくてはいけない。
とりあえず冷蔵庫からペットボトルの水を拝借して飲み干すと、シャワーを浴びに行く。熱いお湯を顔に当てながら、自問自答する。
(いやそれはダメだろ。)
シャワーだけでのぼせそうになった頃、キュッと音をたてて蛇口を閉めた。
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