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麻衣は、夢を見ていた。
巨大なロール雲を水野と眺める。横顔はうっとりするほど綺麗だ。しかし、何故かグライダーの格好をしている。
『じゃ、俺行くわ。』
グライダーの羽を広げて、水野が飛んでいく。モーニンググローリーはその羽を巻き込みながら、遠くへと見えなくなった。
ハッと気付くと、シャワーの音が聞こえた。自分は、と場所を確認して胸をなでおろす。きちんと自分の部屋に戻っていたようだ。打ち上げから帰ってそのまま寝てしまったらしい。
しかし、ぼんやりと部屋を見回すと、鶴野の痕跡が、無い。玄関のあたりには水野のらしいリュックすら見える。嫌な予感がする。
蛇口がキュッと止まる音がして、緊張が走った。慌てて鏡で髪型を整え、二人用のダイニングテーブルの椅子に座る。
恐る恐るその人影を待つ。
タオルを頭から被りながら出て来た人影は、果たして、あきらかに、水野であった。
「うぉっ起きてた。」
「………あれ、何で?でしたっけ……」
麻衣はそのまま頭を抱えた。鼓動で耳が痛い。髪の濡れた水野を直視出来ない。
「そちらのマネージャー様に、部屋追い出されたよ。言っとくけど、何もしてないし、今後もしないからな。」
水野が冷蔵庫から出した新しい水のボトルを麻衣に差し出す。Tシャツにジャージ。初めて見たラフな格好に、こんな状況でも、ときめく。受け取りざま指が触れて、ペットボトルを取り落とした。
ダメだ、明らかに意識してしまう。
「私もっ!シャワー浴びて来ますっっ」
そう言って、着替えの入った袋を乱暴に掴むとシャワー室に逃げ込んだ。
ユニットバスがまだ湯気で湿っている。蛇口から滴る水滴が、直前まで水野が使っていたことを証明していて、気恥ずかしさが限界を超えそうだ。
丁寧にシャワーを浴びて身体を拭く。着替えの袋を覗いて、可愛い下着を買ったのを今更思い出した。
(いやでも、何かそれって…準備オッケーです、みたいで嫌じゃない?でも、そんなことにはならないはずだし……、ううう)
何分か悩んで、結局その下着を着てからパジャマに着替えた。
ドキドキしながらシャワー室を出る。見ると、水野は既にソファで寝ていた。
(何だぁ……そうだよね、まぁ、うん。。)
ホッとしたような、がっかりしたような。でもその大半を寂しい気持ちが占めている。しかし、鶴野マネが今朝まで寝ていたであろうベッドに横にならないのは、水野らしい配慮だ。
麻衣もいったんはベッドに横になるも、寂しくて胸が押しつぶされそうになる。寝れる訳が無かった。
「水野さん……起きてます?」
身体を起こして、ソファの水野におずおずと声をかける。毛布がもぞもぞ動くと、返事をしてくれた。
「……なに。」
「話が……したいです。」
「………わかった。」
二人してギクシャクと起き上がり、ダイニングテーブルで向かい合わせに座った。
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