12.モーニンググローリー

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「あの…ごめんなさいっ!」  麻衣は、水野に向かって頭を下げた。 「水野さんにその…好きって言ってもらえて、嬉しかったです。でも、私、自信が無くて…」  水野が沈黙する。数秒して口を開いた。 「それって、俺を2年待つ自信が無いってこと?」  水野の声がいつもより低いことに気付き、慌てて顔を覗いた。見たことないくらい、悲しそうな顔をしている。違う、そうじゃない。 「違くて!……私が、2年も水野さんに想ってもらえる自信が、無いんです。私ほら、つまらない人間で、水野さんは優秀でイケメンで」 「お前……鍵谷の言う通りだな。」  今度はほっとしたような呆れたような顔の水野が、ぼそっと呟いた。 「俺からすれば、お互い好きだって言えたのに、何で揉めなきゃいけないんだって感じではあるんだけど。要は、俺がどのくらい好きか伝わってないってことなんだろ?」 「……。」  麻衣は返事が出来なかった。実際、その通りだ。水野が何故、いかにして自分を好きになる?その答えを麻衣は持ち合わせていなかった。 「俺、こういうの苦手なんだけど。」  そう言いながら水野はソファに移動した。一人分の席を横に開けて、ここに座れ、とばかりに軽く叩く。麻衣は訳もわからず、その横にちょこんと座った。  すると、水野が麻衣の背中に手を這わせて、優しく抱き寄せた。ふわりと石鹸の香りがして、耳が水野の胸に埋もれる。頭の上に水野の顎が乗るのがわかる。  ドクドクと、とても早く打つ水野の心臓の音が聞こえた。でも、自分もおなじくらいドキドキして、どちらの音なのかわからなくなる。 「……すごい好きなんだけど。……伝わる?」  感情が、溢れる。水野のことを好きな気持ちと、想われているという幸せで、満たされていく。思わず両腕を水野の腰にまわして、キュッと掴んだ。 「はぁ……すげー落ち着く……。てか、このパジャマどういう生地なの。もふもふする。」  水野が背中らへんをふにふにしてくる。くすぐったくて、思わずうぅっと声をあげた。 「ちょっ……水野さんっ!」  思わず身体を離すと、そのまま唇を奪われた。一度の、長いキス。優しくて、温かくて、涙が出そうだった。  名残惜しく唇を離して、顔を合わせると、水野が真剣な顔でこう言った。 「俺のワガママで、2年も離れることになってごめん。2年経ったら迎えに行くから。んで、ワガママついでに許されるなら……」 「待ちます!ぜーったい待ちます!嫌がられても、呆れられても、水野さんのこと待ってます!」 「離れてても彼女でいて。って言おうと思ったんだけど、やっぱペットか。もふもふだもんな。」  また水野がパジャマをふにふにした。 「ちょっと!せめてヒトにしてください!」  叩こうとした手を掴まれて、そのまま手を繋ぐ。 「もう今日、このまま寝よ。ベッド無理。理性崩壊する。」  水野はそう言うと、端に寄せていた毛布を自分と麻衣に広げて、ソファにより掛かった。 「俺寝たら、麻衣はベッド移動して良いから。」 「嫌です。……くっついてたいです。」 「お前…そういうとこだぞ。」  耳を赤くしながら、そっぽをむいた頬に、キスを返す。 「おやすみなさい。」 「…おやすみ。」  今まで生きてきた中で、一番、幸せだった。何度も何度も、繋いだ手の感触を確認する。肩に触れる温かさに震えて、深呼吸をする。  愛されて、良いんだ。一番で、良いんだ。  そう安堵すると、記憶にないくらいの速度で、眠りに落ちた。
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