2.雲間に光が差し込んで

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 反省会を終えて9時には仕事終わりとなった。  朝は3時半に家を出るため、迎えのタクシーが来るが、帰りは電車の動いている時間なので家まで電車を使って帰る。周りはみなこれから出勤してくる人ばかりで、これから帰るというのは不思議な達成感があった。 「今日はお疲れ様。上出来だったと思うわよ。」  局の正面玄関で、微笑みながら鶴野マネが労ってくれる。 「厳しいように思うかもしれないけど、テレビの世界は実力が全てだから。むしろああやって叱ってくれる人を大事になさい。…原稿の件は、びっくりしたけど、でもああやって積極的にやること自体は悪いことじゃないわ。」  原稿の件については、あまりに恥ずかしすぎて、あの場にいた全員の記憶から有名なSF映画のように消し去りたかった。それでも、やる気があってやったことなのだと鶴野が受け取ってくれたことは嬉しい。 「はい。今日改めて、朝のニュースでお天気お姉さんをやるのがどういうことなのか、理解出来た気がします。」  そうね、という顔をしながら、鶴野はバックを肩にかけ直す。  今日の様子から見て、鶴野は事前に水野を知っていたらしい。帰ってしまう前に、どうしても聞きたいことがあった。 「あの…気象予報士ってみんなあんな感じなんですか?」 「え…まさか!」  目を丸くして驚くと同時に、笑っている。こんな顔をしても綺麗だから鶴野マネは素敵だ。 「水野さんのことよね?気象予報士の人が皆、プロ意識が高いのは本当だと思うわ。でも水野さんは、なんというか…さらにドS感があるわよね。まだ28歳とか聞いたけど。」  クスクスと笑う。28歳…4つしか違わないのにあの態度か…… 「それじゃ、夜の20時までには就寝しなさいね。明日からは一人で頑張りなさい。夏休みまでは週5で毎日この生活よ。困ったらいつでも連絡してね。」  手の振り方まで鮮やかな鶴野。この人のようになりたい、と麻衣は思いながら見送った。  帰りの電車で、"水野 竜二"と検索してみた。案の定、 『イケメンすぎる予報士!』 『水野さんに怒られたい』  など、まとめサイトが立っていた。特定のテレビ番組を持たず解説で駆り出されるため、レア感があるのも人気の秘密らしい。  そして、月曜の20時〜21時にやっている都内ラジオ番組の中で、お天気コーナーを持っている、という書き込みがあった。今日は月曜だ。  夜の20時までには寝なさい、と言われたが、そのラジオだけは聞きたい。むしろ今は今すぐにでも寝たい。ということで、帰ってすぐ1時間ほど仮眠をして、20時からのラジオを聞くことにした。
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