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それから麻衣は、予報を聞く視聴者を可能な限り想像した。
朝一で会議のあるサラリーマン
2人の子供を保育園に送るワーキングママ
バスで部活に行く前の高校生
朝の漁から帰ってきた離島の漁師
これから種まきをする農家の人
成田空港についたばかりの訪日外国人………
皆が私を向いている。
そこに水野竜二が現れて言った。
『誰に伝えるつもりなんだ?』
『私は、私は……!』
はっと起きると、目覚ましが朝の3時を鳴らしていた。
あと30分で車が来る。
麻衣は急いで顔を洗うと、すっぴんのまま出掛ける準備をした。メイクは局に着いてからしてもらう。
窓を開けて手をのばすと、ひんやりとした空気の中に水滴を感じる。霧雨のようだ。
しかし3時というのは、昨日の夜と今日の朝、どちらに近いのか。昨日の予報は晴れだった。しかし、この時間まで宴会で飲んでいたような人にとって、この霧雨は寝耳に水、なはず。"予報が外れた"ように感じるかもしれない。
でも、これから私が伝える天気は、放送が始まる5時半から今日24時までの天気だ。
この、"昨日でも今日でもない時間"に、水野はどうしているのだろうか。この空を、この雨を、どう見ているのだろうか。
水野にも、天気予報にも、興味が湧き始めている自分に気が付いた。
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