2.雲間に光が差し込んで

4/11
前へ
/117ページ
次へ
 それから麻衣は、予報を聞く視聴者を可能な限り想像した。 朝一で会議のあるサラリーマン 2人の子供を保育園に送るワーキングママ バスで部活に行く前の高校生 朝の漁から帰ってきた離島の漁師 これから種まきをする農家の人 成田空港についたばかりの訪日外国人……… 皆が私を向いている。 そこに水野竜二が現れて言った。 『誰に伝えるつもりなんだ?』 『私は、私は……!』  はっと起きると、目覚ましが朝の3時を鳴らしていた。 あと30分で車が来る。  麻衣は急いで顔を洗うと、すっぴんのまま出掛ける準備をした。メイクは局に着いてからしてもらう。  窓を開けて手をのばすと、ひんやりとした空気の中に水滴を感じる。霧雨のようだ。  しかし3時というのは、昨日の夜と今日の朝、どちらに近いのか。昨日の予報は晴れだった。しかし、この時間まで宴会で飲んでいたような人にとって、この霧雨は寝耳に水、なはず。"予報が外れた"ように感じるかもしれない。  でも、これから私が伝える天気は、放送が始まる5時半から今日24時までの天気だ。  この、"昨日でも今日でもない時間"に、水野はどうしているのだろうか。この空を、この雨を、どう見ているのだろうか。  水野にも、天気予報にも、興味が湧き始めている自分に気が付いた。
/117ページ

最初のコメントを投稿しよう!

581人が本棚に入れています
本棚に追加