2.雲間に光が差し込んで

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「昨日と違って、今日は複雑な天気だ。朝のうちは晴れる時間もあるが、だんだんと雲が増えてどんよりとした天気になる。それが霧雨を降らせるかどうかは、地域次第。」 「あの、今朝起きたとき、既に霧雨でしたけど。」 「あ、ほんと?麻衣の家どこ?」  ナチュラルにまた呼び捨てにされたことがとても嬉しかった。麻衣は、東京の沿岸部にある自分の家の住所を伝えた。  水野はそれを聞くと、椅子を立ってパソコンで何やら地図上に色がついた画面をスクロールしている。 「ああ、この雨雲か。これで降ってるならやっぱり若干モデルがズレてるな。ってことは…」  立ったままぶつぶつと、考えことをしている。  トドDが、麻衣に向かって、ナイス、と目くばせした。膠着状態を打破するのに、少しは役に立ったらしい。 「おっけ、ちょっとだけ原稿修正するから返して。」 「はいっ!」  原稿を急いで返す。  それを受け取る手が止まって、水野がこちらをじっと見る。 「何おまえ、なんでそんなに笑ってんの。」 「え、だって、役に立てて嬉しいじゃないですか」 麻衣はえへへ、とにやけていた。 「笑顔がインフレしてんのな。そういう奴が朝のテレビに必要っていうのは、俺でもわかるわ。」  立ったまま無表情で原稿に赤ペンを入れている。  褒められたのか、けなされたのか、微妙にわかりづらいコメントだったが、これまでの水野のドSっぷりから、これは褒め言葉なのだと解釈することにした。 (テレビでの笑顔と、あなたに向けている笑顔は違いますよ) と、心でそっとつぶやいた。
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