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「え、ああ、、」
トドDは戸惑いながらも、どうぞ、という風に道を開けた。
水野は麻衣の腕をつかんだまま、どんどんと歩いていく。そのままエレベータに乗ると、上の階に上がっていくようだ。
「あの、何ですか、次はうまくやりますから!戻らなきゃ、ねえ、水野さん。」
エレベータを降りてもまだ腕を離してくれない水野に、悲壮な小声で抗議をするが、それもやむなくいくつもの通路を通り過ぎる。
やがて、ひときわ大きなガラスの扉を開くと、そこは局内にある屋上のデッキだった。
扉をあけた風圧で前髪が乱れる。思わず目を瞑ったところで、水野の背中にどん、とぶつかった。柔軟剤の清潔な香りがして、ドキっとする。
すみません、と小声で言ったが水野は全く聞いた様子ではない。
「あっち、見てみろ。」
水野が低い声でつぶやいたので、麻衣は柵の向こう側に目を向けた。その景色に、麻衣はわぁ、と声を上げた。
そこには、雲間からまっすぐと地面に伸びる、幾筋ものひかりの束が見えていた。眼下に見える都会のビル群が、まだらに照らされてキラキラと輝いている。
最近話題になった、天気を題材にした人気アニメ映画のワンシーンのようだった。
「薄明光線、通称“天使の階段”。この景色見て、どう思う。」
さきほどまでの失敗もすっかり忘れて、景色に息を飲む。
「すごく…綺麗です!天使…出てきそう!」
麻衣のコメントに、水野がぶはっと笑った。
「パトラッシュじゃねえんだから。天使出てきたら死ぬ前だろ。」
「そんなこと言わないでくださいよ!」
水野の笑い顔に胸がきゅっとなった。このイケメンの笑顔は心臓に悪い。
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