2.雲間に光が差し込んで

8/11
前へ
/117ページ
次へ
「え、ああ、、」  トドDは戸惑いながらも、どうぞ、という風に道を開けた。  水野は麻衣の腕をつかんだまま、どんどんと歩いていく。そのままエレベータに乗ると、上の階に上がっていくようだ。 「あの、何ですか、次はうまくやりますから!戻らなきゃ、ねえ、水野さん。」  エレベータを降りてもまだ腕を離してくれない水野に、悲壮な小声で抗議をするが、それもやむなくいくつもの通路を通り過ぎる。    やがて、ひときわ大きなガラスの扉を開くと、そこは局内にある屋上のデッキだった。  扉をあけた風圧で前髪が乱れる。思わず目を瞑ったところで、水野の背中にどん、とぶつかった。柔軟剤の清潔な香りがして、ドキっとする。  すみません、と小声で言ったが水野は全く聞いた様子ではない。 「あっち、見てみろ。」  水野が低い声でつぶやいたので、麻衣は柵の向こう側に目を向けた。その景色に、麻衣はわぁ、と声を上げた。  そこには、雲間からまっすぐと地面に伸びる、幾筋ものひかりの束が見えていた。眼下に見える都会のビル群が、まだらに照らされてキラキラと輝いている。  最近話題になった、天気を題材にした人気アニメ映画のワンシーンのようだった。 「薄明光線、通称“天使の階段”。この景色見て、どう思う。」  さきほどまでの失敗もすっかり忘れて、景色に息を飲む。 「すごく…綺麗です!天使…出てきそう!」  麻衣のコメントに、水野がぶはっと笑った。 「パトラッシュじゃねえんだから。天使出てきたら死ぬ前だろ。」 「そんなこと言わないでくださいよ!」  水野の笑い顔に胸がきゅっとなった。このイケメンの笑顔は心臓に悪い。
/117ページ

最初のコメントを投稿しよう!

581人が本棚に入れています
本棚に追加