2.雲間に光が差し込んで

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「その…悪かった。」  水野が急に神妙な顔でそう言うので、戸惑う。何に対して謝っているのか、ある意味心当たりがありすぎでわからない。 「誰に伝えるか、を考えるのは大事だが、それはもっと先の話だ。」  水野は柵まで歩いていくと、前に乗り出しながら言葉を続けた。麻衣もその横で柵の前に立つ。 「俺はさ、こうやって空見るのがすごい好きで。雨でも晴れでも嵐でも関係なくて、なんでこんな良いもん見ないんだ、っていつも思ってて。…タダなのに。」 「タダじゃなくても素敵ですよ。」  麻衣は思わずつっこんだ。  水野はこちらを見てニヤっと笑う。 「でも意外と、みんなそんなに天気に興味ないんだよ。雨は嫌だ、晴れならそれでよし。そればっかり。空を見るなんて旅行行ったときくらいとか。あんたの前任もそうで、お天気キャスターをタレントになるための踏み台くらいにしか思ってなかった。」  水野は穏やかな目で雲の向こうを見ながら話している。いつもよりも優しい声で、耳がくすぐったくなる。  タレントになるための踏み台、それは耳の痛い話だった。実際、鶴野も、この仕事をやりとげればタレントとして人気が出るかもしれないと言った。  ただ麻衣にとっては、お天気お姉さんそのものを最大のチャンスととらえていたし、既にとても面白い仕事だと感じていた。だから楽しみにしていたのだ。昨日も今日も、緊張はしたし落ち込みもしたが、それを上回る楽しさがあった。 「東十条さん…番組の総合プロデューサーが、あんたのこと、なんでも興味を持って楽しそうにやる奴だから、急だったけど任せられると思った、って紹介してた。だから、当然天気にも興味持って来てるんだと思ってたのに、初対面でチャラついたこと言って来たからムカついた。」  プロデューサーはそんな風に思って見てくれていたのか。この件に関して自分の評価を他人から聞くのは初めてで、すがりたくなるような言葉だった。  それと同時に、浅はかな勉強で予報士の仕事を軽く見たことや、顔だけで水野を出演者と間違えた軽薄さが水野を傷つけたことを深く後悔した。 「謝るのは私のほうです。…すみませんでした、その…」  認識が甘くて。  と言おうとしたところで、今日の放送のふがいなさを思い出してまた顔がこわばった。   自分が謝らなきゃいけないことは山ほどある。何様のつもりでこの人に先に謝らせてしまったのだろうか。
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