2.雲間に光が差し込んで

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 その沈黙のせいか、水野は麻衣のほうを向いていつもの声で言った。 「あのなぁ、新人キャスターがド下手なのは当たり前なんだよ。天気に詳しくないのも当たり前。それを取り繕うとするな。」  ポケットから、しわくちゃの紙を四つ折りにし直したような塊を取り出して開き、読み上げる。 「東京は晴れるので、日焼け止めと日傘が必須!四月でも油断大敵ですよ!」  それが、昨日自分の書いた原稿であることに気付いて叫んだ。 「ちょ…やめて!捨ててくださいよ!!!」  水野の手から原稿を取ろうとするが、水野が高く手を挙げるととても届かない。ぴょんぴょんする様子を水野が笑って見下ろす。  意外と顔が近いことに気が付いて、麻衣は胸が跳ね上がるのに気付き、ぱっと離れた。水野は涼しい顔だ。 「これ、外れてはいないんだよな。資格持ってないのに自分で原稿書いてきたやつなんて初めてだから、冷静に考えると面白かったわ。アホだけど。」  ひどい。謝ってもドSは健在である。  でも、昨日よりもずっと柔らかい口調なので、不思議と麻衣はもう傷つかなかった。  水野は少しだけ優しい顔になって続けた。 「なあ、あんたには、まず天気を好きになって欲しい。……予報士としてそれを最初に伝えるべきことだったのにつまらんことを気にさせた。それだけは謝っておく。…以上。」  …なんて、不器用で、可愛い人なんだろう。この人は、本当に天気が好きなんだ。それを共有したくて、みんなに伝えたくて、それでこの仕事をしているんだ。そのことが痛い程伝わって来た。  この人と、この人が好きなものを同じくらい好きになりたい。  そのことを思うと、麻衣は胸にあふれてくる感情が止まらなくなった。 「もう既に、好きですよ…天気も、水野さんも。」  言ってしまってから、しまった、と口を押えた。
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