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しかし水野はそれを見ないまま、そりゃよかった、と言って室内に戻る扉に歩いていく。
変な意味に、いやそういう意味でも好きなことに変わりはないのだが、それが伝わっていないことにがっかりと感謝の混ざった感情を持ちつつ、追いかけながら声をかけた。
「あの、私、どうしたらもっとちゃんと天気を伝えられるようになりますか!?」
水野は先をすたすた歩いている。エレベーターの下りボタンをぱしっと押す。
「あんたが書いた原稿、内容は悪くないんだよ。俺には理解できないが、あんた何でも興味持てるんだろ。だから、ミーハーなりに、天気の先を伝えれば良い。」
まだミーハーは撤回してくれないのね、と思いつつ、その先を聞きたかった。
「天気の先…ですか?」
「多くの人はどんなに忙しくても、“天気によって自分にどう影響があるか”には興味がある。傘を持つかどうかはもちろん、体調、服装、イベントの有無、季節の移り変わり。」
「えと、お花見できるかなーとか、髪の毛がまとまらないなーとかですか。」
「そう。だから、なんでもいい、天気に関係することなら全てぶつけてみろ。トドDが綺麗に仕上げてくれる。ちなみに俺は苦手だ。」
そういうことか。それなら出来そうだ。水野には苦手なこと。頼られることがとてつもなく嬉しい。
「…はいっ!!!」
何年一緒に仕事が出来るかはわからないが、この人と、この仕事を一緒に精一杯頑張りたい。
お天気お姉さんの仕事が決まってから以来初めて、素直にこの仕事を極めたい、と思えた。
これが、麻衣のお天気お姉さん人生の始まりだった。
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