3.梅雨は試練の季節

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『見てください!家の近くでアジサイが咲いてました!キレイ!これお天気コーナーで、アジサイ開花、って紹介できませんか?』  メッセージの送り主は、4月から新しくお天気キャスターになった御子柴 麻衣だ。  資格は持っていないが、2ヶ月経った今ではキャスターとして危なげなく放送をこなしている。これまでのタレントキャスターと違って、トピックになりそうな話題もこうして送って来るほど積極的だ。それが水野には嬉しかった。 (ただ、相変わらず知識不足は否めない…)  ふーっとため息をついて、メッセージを返した。 『主要な植物の開花は、気象庁が標本木を指定している。東京だと、アジサイは北の丸公園、桜は靖国神社。そうじゃない限り開花は宣言出来ない。』  また細かく振動すると、柴犬が泣いているスタンプが送られてきた。柴犬、と吐いた暴言を受け入れるあたり、ドMである。  仕方なく、再度返信をした。 『ただ、萩野さんとの絡みの素材としてはアリだ。その写真フリップ※にしとけ。そして早く寝ろ。』※手持ちの板  柴犬のスタンプが了解っ!と敬礼した。 「竜二、なにニコニコしてるの?」  同期入社の木下 美野里(みのり)が手持ち鞄を机に置きながら隣に座った。  長く垂れるピアスが揺れる。ショートカットでぱっとした華やかな顔つきから、夕方のニュースのお天気キャスターに抜擢されている。予報士の資格も持った、正真正銘の"原稿のいらないお天気お姉さん"だ。 「いや、御子柴が、柴犬っぽいなーと思って。」  携帯の画面を消し、パソコンの画面に映るメッシュ予報を更新する。 「あ、ちょっといまのもう一回今日の夜の予想に戻して」  美野里がパソコンの画面を覗き込む。 「千葉沿岸部だけの予想だった雨雲、23区にもかかりそうだな。」 「うん、そう思ってたからさっきのオンエアでは傘持ったほうが良いって言っといた。良かったぁ。」 「さすが」 「予報士ですから。」  今日は言い方に棘がある。 「で、朝の子と上手く行ってるんだ?前任の子なんてボロクソに言ってたのに。」  話が逸れたと思ったのに戻ってきた。水野はため息をつく。 「美野里も前任は好きじゃなかったろ」 「あら、興味なかっただけよ。嫌いとかじゃなくて」  それはもっとキツイんじゃないか、とは言わなかった。
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