3.梅雨は試練の季節

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「異動願い取り下げたのも新しい子のせいだったりして?」 「なんでそうなる。取り下げたんじゃなく、もう1年やれって、社長にゴネられたんだよ。」  ウェザーテクノは小規模なので異動願いを直接出せるくらい、社長との距離も近いのが良いところだ。一方で、"柔軟過ぎる"人事には不満があった。水野はもともとエンジニア採用だったのに、社長の『君は見栄えがよろしい』の一言で、局への派遣部隊にさせられた。 「社長は、みらいテレビ局におけるお天気室の常駐枠を繋ぎ止めたいのよ。ほら、あなたの原稿も、解説として控えてくれているのも、みらいテレビにとってはかなり心強いみたいだし。」 「美野里でもできる」 「私は夕方ニュース枠で手一杯!しかも資格持ってない女のコのお世話は苦手だわ。でも結局男性って、おバカで可愛い子のほうが好きよね。資格も持たない、"お天気お姉さん"なんて職業が成り立つくらいなんだもの。」  歯に絹きせぬ言い方は嫌いではないが、美野里のプライドの高さは玉にキズである。せっかくの綺麗な顔がもったいない、と常々思う。  水野はお天気キャスターに関して、さほど資格の有無にこだわりは無かった。視聴者から見たらあまり変わらないんじゃないかとすら思っていた。自分が資格をとったのは、あくまで天気が好きだったからである。周りにどう思われるかはあまり興味が無い。ただ、男で資格を持ってないお天気キャスターがほぼいないことからも、女性は容姿で選ばれがちということに一定の同情はあった。 「狭い業界で、そんな敵対視しなくても良いんじゃないか。まぁ、あいつアホだから世話がめんどくさいのは同意するけどな。」  10分後に始まるラジオの出番に向けて、事務所内にあるラジオブースへと移動しようと立ち上がると、腕を掴まれた。 「…竜二、やっぱおかしい!」 「…なにが。」 「…なんでもない。」  水野が怪訝な顔で見下ろすと、美野里は不満げな顔をして引き下がった。  (あいつなに機嫌悪くなってんだ…?)
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