3.梅雨は試練の季節

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「でも、そもそも梅雨ってなんで起こるんですか?」  それ、興味ある?大丈夫?話すと長いけど。久しぶりに気象について詳しく話せる、とテンションが上がった。 「まず、季節が夏になるには太平洋高気圧の発達が必要なんだが………」 「水野、悪い、時間がない。5時だ。」  トドDがそれを遮った。 「あ、はいすみません。確認します。」  立ち上がりパソコンへと移動する。  気象庁からの天気予報の発表は、毎日5時、11時、17時に更新される。放送直前の5時に大きく予報が変わると、さすがにこちらの原稿の変更も必要になるので要チェックだ。 「大丈夫です、大きく変わりません。いまの原稿で行きましょう。」 「おっけ。そいえばはい、これ頼まれてたフリップ!」  トドDが麻衣に、アジサイの写真を貼り付けたフリップを手渡す。そこには、『梅雨入り、アジサイの開花発表も間近か!?』という文字が添えてあった。 「えへへ、ありがとうございます。」  ちゃんと作りました、褒めて褒めて!という顔でこちらを見てくる。髪の毛は俺が良いと言った編込み。尻尾が見えそうなくらいの柴犬っぷりだ。  見ているこちらが恥ずかしくなって、思わず目をそらす。 「照れてます?」 「呆れてるんだ。早く読み合わせしろ!」 「はーい!」 「それじゃ、5時台の全国天気から。」  トドDが進行して読み合わせが始まる。  麻衣のよく通る鈴のような声が響く。  確かに美野里の言う通り、前任のお天気お姉さんとは折り合いが悪く、読み合わせの時にはもう原稿を書き終わったものとして、ほとんど形だけの参加だった。しかし担当が麻衣になってからは、早朝のこの時間が楽しみになってきている。それが何故なのかは、あまり深く考えていなかった。
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