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骨ばった大きな右手に、反射的に自分も右手を出す。
「手、ちっさ」
水野は、麻衣の手を掴んだまましげしげと見つめた。長いまつげの影が頬に落ちている。
(…綺麗な顔…どうみても素人さんじゃない…)
麻衣は焦った。モーニンググローリーの出演者の名前と顔は全員覚えたし、先ほどの楽屋回りで当然挨拶もした。漏れがあったのか、それとも自分と同じように急遽決まったのか………
「あ、あの……出演者の方ですよね、もうスタジオに行かなきゃなんじゃ…?」
麻衣が手を伸ばしたままおずおずと声をかけると、男性3人が、え、という顔をして沈黙する。
まずい、と麻衣は手を離した。
「あの、失礼しましたっ、挨拶もしないで…」
その様子を見て、トドDとカメ田が顔を見合わせて爆笑した。水野は何故かブスっとした顔をしてこちらを睨んでいる。
「いやー!違う違う!こいつ顔良いから間違えられるかもだけどさ、この部屋の要、気象予報士!」
「えっ!?……すすすすみません……てっきり出演者の方かと……」
麻衣は顔を真っ赤にさせて謝った。それを見て、水野は皮肉にニヤリと笑った。
「…ミーハーって、顔に書いてあるな。表舞台が全てか。」
え?
聞き間違いかと思った。その顔から放たれた言葉とはとても思えなかった。この豹変ぶり。前言撤回、全然、優しくなんかない。
言われた言葉の意味を飲み込みながら、自分の顔が今度は青くなるのがわかる。が、ここで引き下がるわけにはいかない。ミーハーなんて言わせない。
「あのっ私、」
ごそごそとポシェットから四つ折りにしたA4の紙を取り出す。
「気象庁のホームページ見て自分で原稿書いてきたんです!!今日、東京は晴れるんですよねっ!?」
焦る手で紙を開き、水野に突き出した。
大学時代から使っているパソコンで書いた横書きの原稿を、水野がじっと見つめ、そして麻衣の顔を見た。
(さぁ、褒めなさいよ!見直した、って。)
積極的ですごいね、と、トドDあたりがチヤホヤしてくれるのだと思っていた。それなのに、また全員が沈黙している。
しかも今回は、さっきの沈黙とは違う、なんとも居心地の悪い空気が流れている。
「あの…何か…?」
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