1.最悪の出会い?

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 それから、初日ということで鶴野も同席して初めての読み合わせが始まった。明日からは鶴野抜きで参加しなくてはいけない。緊張が抜けない。  そして、いかに自分の原稿が意味のないものだったかを知る。  すべての原稿は、放送される画面に連動させて区切られており、雲の画像、雨の予想画面、時系列予報、週間天気予報…と次々に切り替わる画面ごと、それぞれを何秒で読み上げるかまで、細かく指定してある。  これまで視聴者として見てきた天気予報が、そんな風に細かく設計されているなんて思いもしなかった。  さらに、水野が仕事が出来る、と言われた理由はすぐにわかった。目の前に出された原稿は縦書きでとても読みやすく、簡潔で鮮やかと言っても良いほどだ。すべての説明のシナリオに無理が無い。それでいて読みにくいところには手描きでフリガナがふってある。気遣いも細やかだ。 「昨日まで東京に大雨を降らせた低気圧、いわゆる“春の嵐”は、いま北海道にいる。東京は晴れるから、今日の関東の天気のポイントは"春の紫外線"だ。月別の平年日射量をグラフで見せる。」  水野が今日の天気予報のコンセプトと、グラフの意味を説明してくれる。わかりやすく、丁寧だ。ほぼ知識ゼロの麻衣にはありがたかった。  「紫外線だからさ、こう、空の明るいところを写してから振り下ろして、麻衣ちゃんに当てるから。ちょっと右手で傘作って眩しそうにしてくれる?」  カメ田がカメラの撮り方について案を出す。  いいんじゃないですか、と水野が微笑みながら言う。 (……この人、男同士だと愛想良いタイプなの?)  さきほどのショックもあり、麻衣は訝しがりながらその様子を見ていた。  モーニンググローリーのお天気コーナーは、番組中に全部で5回ある。どの時間にテレビを付けた人にも、30分に1回は情報が届けられるようになっている。  時間の早い順に、1分、2分、3分、3分、1分、という尺が与えられている。それぞれの尺に合った原稿を用意し、推敲していく。  全ての回で全国のお天気を伝えるが、比較的時間の長い3分の枠では、関東に特化した予報も伝える。その間他の地域では、その地域の局が用意する、地域限定の予報にそれぞれ画面が切り替わるようになっている。 「だから、関東の予報で話したことを『さっき話したとおり…』なんて言ってはいけない。関東”以外”の人には、伝わらないからね。」  そんなトドDの注意事項を受けながら、麻衣は改めて部屋の中を見回した。
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