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壁中に、気象庁のホームページでは載っていなかったような、専門的な天気図が数十枚、いや百枚を超えるほど、重なり合ってところ狭しと張り出されている。本棚にはびっしりと難そうな気象の本が並ぶ。
また、20は超える小型のテレビモニターでは、他のチャンネルも含めた全ての全国テレビで放映されている番組、また各地のお天気カメラの映像が、リアルタイムで流れている。
壁沿いに並べられた机には、たくさんのパソコンと本、…そしてお菓子やお弁当。全員で囲んでいる中央の机が一番綺麗だったが、その机の上であっても、原稿や赤ペン、ボールペンの山で散らかっている。
”気象庁の発表した情報を要約してしゃべれば良い”
なんて、とんでもなかった。こんな大量の情報を、たった数分の間でわかりやすく伝える。並大抵のことではない。
テレビの中で見る毎日のお天気コーナーの裏では、こうして地道な作業をしている人達がいるのだと、改めて頭の下がる想いだった。
水野は打合わせの間に何度も立ち上がり、パソコンや天気図、そして窓やお天気カメラの映像から空の様子を確認して、必要に応じて原稿を修整する。
その様子はあまりに真剣で、ムダが無い。悔しいけれど、プロ意識の高さを認めない訳にはいかなかった。
「滑舌は問題ないね、さすが!そろそろ本番、行くよ。」
読み合わせが終わると、トドDはそう言って紙コップの温かいお湯を差し出してくれる。
お茶は喉が枯れることがあるのでアナウンサーには避けられる傾向にある。それを気遣ってくれた優しさが嬉しかった。のどを温かいお湯が通って、こわばった体が少しずつほぐれていく。
麻衣は、よしっと自分に気合いを入れて、立ち上がった。
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