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「……来たわね」
仁王立ちで腕を組み、睨みながら私に真っ直ぐと敵意を向けてくるのは、予想した通り神田さんだった。
体育館裏は相変わらず陰鬱とした雰囲気で、ここ最近の私の気分を表しているようだった。眉間にくっきりとシワを刻んだ神田さんは、私を見て堂々と舌打ちをすると、眉間のシワを更に深くした。
「……アンタ、平岡と別れたんだって?」
「うん」
「ていうかそもそも本物の彼女じゃなかったんでしょ?」
驚きが顔に出ていたのか、神田さんは私の疑問を汲み取って先に答えを出した。
「……本人に全部聞いた。ていうか無理やり吐かせた」
「……そう」
神田さんは「はぁ~~~~」と心の底から深い溜息を吐き出す。
「ほんっっっとズルイよね成瀬さんって。平岡のこと好きじゃないくせにずーっと隣独占してさ。みんなのこと騙して、傷付けて。あーあ。本気で好きだったあたし達がバカみたいじゃない」
「……ごめ、」
「あ、謝んないでよ? 許す気ないし余計腹立つから」
私は開いた口をピタリと閉じた。
「でもさ、アンタ。今は平岡のこと好きでしょ?」
「……え?」
「なんでわかったのなんて言いたそうな顔してんじゃないわよ。そんなの見てればわかんのよ!! 恋敵だもん当たり前でしょ!?」
ヒートアップした神田さんは次々と怒りをぶつけてくる。
「なに? それなのに自分の気持ちに気付いたら怖くなったって? 隣にいるのが辛くなったから逃げた? 今まで散々あたし達の気持ち踏みにじってきたくせに? あたしがずっとずっと欲しかった平岡の隣独占してきたくせに? はぁ? バッカじゃないの!?」
私はぎゅっと両手を握る。
「平岡に好きな人がいるからってなによ!! そんなことで諦められてるならとっくの昔に諦めてるっつーの! アンタは自分が傷付きたくなくて逃げてるだけの卑怯者よ!!」
私自身、もう限界だったのかもしれない。
「……によ……て」
行き場を失った気持ちがどんどん溢れてきて、気付いた時には止められなくなっていた。
「……なによ、みんな同じこと言って。確かに私はずるいよ。神田さんの言う通り卑怯者だよ! でも、私だってこんな事になると思わなかった! 平岡くんのこと好きになるなんて思わなかったよ!! ……そうよ。私は自分が傷付きたくないから逃げ出したの。でも、誰だってそうでしょ!? 神田さんだって平岡くんに自分の気持ち、」
「あたしは戦ったわよ!!」
「……え?」
「アンタと一緒にしないで! 負け戦だろうがなんだろうが、あたしはちゃんと中学のリベンジしたんだから!!」
「え? ……え?」
涙を堪えながら叫んだ神田さんの顔を、ポカンとした顔で見据える。
「告白して振られたっつってんのよこの鈍感!!」
神田さんはずずっと鼻をすすって舌打ちを鳴らす。
「あーもうマジ無理超ムリマジ腹立つ! あたし成瀬さんホント無理だわ!! 超腹立つ!!」
「……私も神田さん無理だけど」
「はぁ!? 普通そんなこと本人目の前にして言う!?」
自分の事は棚に上げて、神田さんは私を思いっきり睨みつけた。いや、これはお互い様でしょうよ。
……でも、そっか。神田さんは平岡くんにちゃんと告白したんだ。もしかしてこないだ二人で自販機に居た時だろうか。平岡くん授業に戻ってこなかったし。
私はひとつ息を吐いた。
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