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残された塚本くんは、私を見て苦笑いを浮かべる。
「由香ちゃんはああ言ってるけどさ。本当は栞里ちゃんのことすごく心配してるんだよ」
「……うん」
それはわかってる。由香は言葉はキツイけど根は優しい良い子なのだ。中学の時から、ずっと変わらない。
「塚本くんもごめんね。私のこと気にかけてくれてありがとう」
「いいのいいの。女の子は傷心中の方が口説きやすいしね。ほら、泣きたかったらオレの胸貸すよ?」
「……結構です」
「わー、ごめんごめん! 今の冗談だから!! だからそんな軽蔑の眼差しでオレを見るのやめて!!」
いつも通りの塚本くんの態度が、今はとてもありがたい。
「しかしあれだねぇ。噂が出回るのは早いねぇ」
「そうだね。でも、人の噂も七十五日って言うでしょ。そのうちみんな飽きて話さなくなると思うし」
確か、平岡くんと付き合い始めた時にも似たようなことを考えていた気がする。
「まぁねぇ。でも、今は時代が変わってるからさ。七十五日なんて待たなくてももっと早くに消えると思うよ。……次の話題が見つかれば、だけどね」
「それって……次の話題が見つからなければずっと続くって言いたいの?」
「あれれ~? そう聞こえた?」
塚本くんは意地悪そうにニヤリと笑うと、眉尻を下げて私の名前を呼んだ。
「栞里ちゃん」
「……なに?」
「ほとんど由香ちゃんが言っちゃったから、オレから言わせてもらうのは一つだけにすんね」
彼にしては珍しく、真剣な表情で私と向き合う。
「栞里ちゃん。オレ、栞里ちゃんには自分が後悔しないようにしてほしいんだ」
「……え?」
「九回裏ツーアウトからの逆転サヨナラホームラン、弱小チームのジャイアントキリング、試合終了の合図と共にゴールを決めるブザービート、後半アディショナルタイムでの大どんでん返し。勝負は何が起きるかわからないんだからさぁ。戦う前から逃げるのはもったいなくない?」
「……でも」
「諦めたらそこで試合終了だって某漫画の先生も言ってることだしさ。栞里ちゃんももうちょっとだけ頑張ってみたら?」
……まったく。みんな人の気も知らないで好き勝手言ってくれちゃって。
私は塚本くんに背を向け、静かに図書室を後にした。
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