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「…………これ!!」
そう言って肩にバンと押し付けられた封筒を仕方なく受け取る。ヒリヒリと痛む左肩を気にしながら封筒を見ると、細く神経質そうな文字で〝成瀬栞里さんへ〟と私の名前が書いてあった。表にも裏にも、差出人の名前は見当たらない。
「…………それ。平岡の落とし物!!」
「……落し物?」
「そうよ! もういらないものだからって目の前でゴミ箱に捨てたものをあたしが拾ったの! だからこれ、アンタが平岡に届けてよ!!」
神田さんの言葉に思わず眉をひそめる。
「……それは落し物って言わないんじゃ……」
「うるっさいわね!! 拾ったんだから落し物でいいじゃない!! 細かいことは気にしないでよ!!」
「でも、」
「だって!!」
神田さんは私の言葉を遮って叫ぶように言った。その顔は悲しそうに歪んでいる。
「だって平岡がつらそうだったから! あまりにもつらそうな顔でゴミ箱にこの手紙捨てようとしてたから!! 本当は捨てたくないって丸分かりなのに、無理して捨てようとしてたから!! だからっ、だからあたしが拾ってあげたのよ!!」
神田さんは再び親の仇を見るような目で私を睨む。
「ていうか!! アンタも少しは平岡の気持ち考えれば!?」
「……平岡くんの気持ち?」
「なんで付き合うフリなんて回りくどいことしてたのかは知らないし今さら知りたくもないけど、これだけはハッキリ言っておくわ。平岡はね、嘘や冗談で女の子と付き合うような軽い男じゃないんだから!! そんな男がなんでアンタと付き合ったのか、活字で埋まった残念な頭で精一杯考えるがいいわ!!」
神田さんは私の顔の前に人差し指をビシリと突きつけて言った。
「勘違いしないでよ!? あたしは平岡の味方なの! 平岡のために動いてるの! だから、もしアンタが平岡を悲しませるようなことがあったら未来永劫、末代まで呪ってやるから覚悟しておきなさい!! それと!! 読み終わったら急いで図書室に行って! いい? 絶対よ? 行かなきゃマジで呪うからね!! 用事はそれだけよ。じゃ!」
神田さんの去って行く後ろ姿をぼんやりと見送ったあと、私は自分の手の中に残った封筒をじっと見つめる。
封筒は至って普通の横長の封筒だが、右下のあたりがぽっこりと膨らんでいた。どうやら手紙以外の何かが入っているらしい。……なんだろう。
妙な緊張感が漂う中、私はそっとその封筒を開けてみた。
「…………え?」
二つに折られた薄い紙切れの他に、ポトリと手の中に落ちてきたのは見覚えのある赤いお守りだった。ご利益のありそうな金色の糸で〝合格祈願〟という文字がしっかりと紡がれている。
蘇るのは受験の時の記憶だった。
雪の中で一人佇む後ろ姿。落としたお守り。〝ありがとう〟という言葉。
あの時、私を見て手を振っていた学ラン姿の男の子は……。
「…………うそ」
私は口元を押さえてしゃがみ込む。……そうだ。なんで気付かなかったんだろう。
あの時、私がお守りをあげた男の子は。私に向かってありがとうと手を振っていた男の子は。他の誰でもない、平岡彰くんだったのだ。
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