13通目:私と平岡くん

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*  昔から何不自由なく過ごしてきた。  勉強も運動もやれば簡単に出来ていたし、親の愛情にも恵まれ、仲のいい友だちもいて、先生ウケもよく、女の子からたくさん告白されたりもして。おそらく、俺の人生は小さい頃から順風満帆というやつだったのだろう。  それに対して別に文句なんかない。むしろ感謝するべきだろう。こんなに恵まれた生活が出来ているのだから。  ……楽しいか楽しくないかと聞かれたら、なんて答えればいいのかわからないけれど。 「お前、帝都(ていと)大附属の推薦受けてみないか?」  中学三年。担任との進路相談で言われた学校名は、県外の難関校の名前だった。 「はぁ。別にいいですけど」 「そうかそうか!! 受けてくれるか! あそこは難関校だけど、お前なら絶対入れると思うんだ! そうなったら我が校初の快挙だぞ! 先生たちもお前のこと全力でサポートするからな! 頑張ろうな!!」  暑苦しく盛り上がる担任とは逆に、俺の心は冷めていた。  どうでもよかったのだ。高校も、大学も、その先だって。  特別行きたい高校もなかったし、俺は言われるがままに帝都大附属の推薦を受ける事にした。結果は見事合格。担任を始めとする中学の先生はみんな喜んで、同級生からは嫉妬と羨望の目で見られていた。両親も嬉しそうによく頑張ったと俺を褒めてくれたのだが、どういうわけか心は晴れない。  それに、毎日の生活がなんとなく息苦しいのだ。環境が変わればこの息苦しさもなくなったりするのだろうか。まぁ、別にどうでもいいけど。  推薦で合格を決めた人は、一般入試の当日は登校日となっているらしく、俺は雪の降る中意味もなく学校にやって来た。  パラパラと人がまばらな教室で用意されたプリントに答えを書き込んでいると、慌ただしく入ってきた担任が、俺たちを見て元気よく叫び出す。 「よしお前ら! お前らの合格パワーを他の受験生のみんなにもわけてやりに行くぞ!! 合格応援団結成だ!」  ……は? なんでそんな面倒なことやるんだよ。受験は自分との戦いだろ? 俺たちには関係ないんじゃないか? 「ほらほら何してる! 早くしないと試験が始まるぞ!」  有無を言わさぬ担任に連れられ、俺たちは各高校の試験会場へと向かって歩き出した。雪も降ってるっていうのに……勘弁してくれよ。
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