夏のはじまり

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「はいできた」 「ありがと」  アップになった首筋を、ぬるい風が通り抜けていった。汗をかいた肌が少しだけ冷えて気持ちいい。  思わず息を吐いた瞬間、うなじにちゅっと冷たくて柔らかいものが押し当てられた。 「ひゃっ!?」  思わず振り返ると同時に、はじけるような笑い声が公園に響きわたる。 「なっ、何!?」 「あははっ! 今の顔、最っ高に面白い」 「もう! なにそれ…意味わかんない」  ーー今の、キス? なんで?  かあっと顔が熱くなった。自分でもわかるくらい、心臓の音がうるさい。アイスで冷えた唇の感触が、なかなか消えない。 「ねえ。夏休み、どっかいかない?」  そう言うと、マキはなにごともなかったように私の隣に座り直す。  まだ心臓が鳴り止まないんだけど。 「…うん。そうだね。沙和たちにも声かけよっか」 「じゃなくて。二人で」 「へ?」  間抜けな声が出てしまって、思わず口を押さえた。 マキは制服から伸びたすらりとした足をぶらぶらさせながら、下を向いている。 「二人じゃ、やだ?」 「…い、いよ」 急にそわそわと落ち着かなくなる。  わたし、何を意識してるんだろう。友達と二人で遊びに行く約束をしてるだけなのに。 「よしっ!」 白い歯を見せて嬉しそうに笑うと、マキはすっくと立ち上がった。 「海とか行っちゃう?」  大きな瞳を細めてわたしを見下ろすその顔は、やっぱり見惚れるくらい綺麗で。  触れられた首筋が、じわりと熱をもった気がした。 〈おわり〉
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