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「あっつ――」
日陰のベンチにすとんと座ると、マキがため息混じりの声を上げた。その手には、溶けかかったガリガリ君のソーダ味。
高校の帰り道にあるいつもの公園。
梅雨明けの抜けるような青空は、叩いたら音がしそうなくらい澄んでいる。
マキは少し上をむいて、空に似た水色のアイスを慎重に口に運んでる。
栗色のショートボブがよく似合う、小さくて白い横顔。その細い首筋を、汗がひと筋ゆっくりと伝っていった。
ほんとうに綺麗な顔をしてると思う。カールした長い睫毛とか、光を含んだ大きな茶色の瞳とか、つるつるの肌とか、嫉妬する気も起きないくらい。
もうすっかり見慣れたはずなのに、わたしは今初めて気づいたみたいに心の中でため息をついた。
「なぎさも食べる?」
視線に気づいたマキが、横目でわたしを見る。
「んー、いいや。半分とけてるし」
「あっそ」
マキの目は、好奇心旺盛な猫みたいだ。くるくると表情を変えるのに、時々何を考えてるかわからなくなる。
手持ちぶさたでふっと青い空を見上げると、ぎらぎらと眩しい太陽が目に入った。見ているだけで、三割増しで暑い。
「ほんと暑すぎだね。溶けそう」
「髪おろしてるから余計暑いんだって。結べば? あたしやってあげる」
マキは棒だけになったアイスをそばのゴミ箱にひょいと投げ入れると、わたしの後ろに回った。
「ゴムかなにかある?」
ポーチから取り出したヘアゴムを渡すと、マキはわたしの肩までの髪を器用にまとめはじめた。つやつやだねー、なんて言いながら。
細い指が梳くように髪の間を滑っていく。
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