序章 ーHe lives somewhere now... I must go to there. ...Part3

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序章 ーHe lives somewhere now... I must go to there. ...Part3

[視点:筆者] しばらくアマンダから聞いた道を歩いていくと宿に着いた。 二階建ての造りで、特に目立つ目印も無いシンプルな外装である。 ゲイルはふうっと息を吐いて後輩二人を一度振り向き、 「じゃあ俺が行ってくるからお前らはここで待っていてくれ」 そう言い残して建物の中に入っていった。 後輩二人は特にやることもないので近くのガードレールに腰掛ける。 シリウスはすっかり飲み干したコーヒーの空き缶をほんの数メートル先に設置されたゴミ箱に向かって投げて……見事に空き缶はその中に入った。 そして口元に笑みを浮かべてただのゴミ箱にドヤ顔を向ける。  ……こいつ、真面目そうな顔して中身はガキだ。 その様子をまったく見ていなかった相方のラスは「あ、なぁちょっとシリウス」と言って自らの左手の薬指の第二関節を曲げて見せ、 「この状態にしてると第一関節に力が入らなくなる! すごくね?」 ……こいつも、ガキである。(ラスの言葉に「……本当だ」と素直に驚嘆したシリウスの態度は言うまでも無い) しかもたわいのない話だったからか会話はすぐに途切れた。 「そういえばさっきの挨拶、あれでよかったのかな」 ふとシリウスがどこを見るわけでもない目をして呟き、ラスは首をかしげた。 「何が」 「アマンダさんのところに行ったときに警察手帳を見せて名乗っただろ。あの時俺、『後輩のシリウス・レイターです』って言ったけど実際の正式な挨拶だったのかわからない」 「あぁ、アレのこと? ……さぁな。だって俺ら……基本の挨拶の仕方、警察学校で教わってないじゃん」つーか、それ教わるもんなの? ――――カアァァカアァァ (カラスの鳴き声を聞きながら二人は遠い目をする) 「俺たちってこの数年間あそこで何学んだっけ」 「…………筋トレ?」あと、その他もろもろ? シリウスはため息をひとつ。 その横でラスが「あ、」と言葉を漏らしてから相方の方を見る。 「ところでさ、先パイってホントに『刑事』なのかな。……確かもうちょっと階級高くなかったっけ?」 「本人もよくわからないらしい。たぶん『警部』くらいは軽く超えてるんじゃないか? ただ、今の俺たちの組織ってなんか色々とアバウトだし不思議だから、どうだろう」 「うーん、確かに。俺たちが所属してる『警察庁特殊捜査班』も一応新設だし、階級とかしっかりしてないのかも」 「見切り発車でよくもまぁ警察の組織立て直したよな…」 そして再び沈黙。 シリウスが腕時計を見ると、時刻は午後七時を過ぎていた。未だゲイルは戻ってこない。 「いよいよキョウゴ君に会えるんだな」 「んー……どんな子だろ……」 「おい……お前確かにアマンダさんに聞いたよな?」 次の瞬間、バンッ!と豪快な音をたてて宿の扉が開き、ゲイルが出てきた。 「ラス、シリウス! 『レスト』はここに居ない!」 後輩二人「「はいぃっ!?」」 ゲイルは大股で近くのベンチまで歩き、どかっと腰をおろして盛大なため息をついて目を閉じる。 「数時間前にここをキャンセルしたらしい。くそ……今回はあいつに『負けた』かもしれん」 「先パイ……」 後輩二人がゲイルに近づき、どんな言葉をかけようかと目を合わせていた時。 ゲイルはカッと目を開いた。 「あ」 「「あ?」」 後輩が不思議な表情をしているその目の前でゲイルは何かを確信したように表情が晴れていき、 「よし……よし! 夜行列車乗るぞ! 走れ、遅くなっちまう!」 「「はいぃっ!?」」 そんな後輩の言葉など聞かずにゲイルは二人の間を突っ切っていった。  ……三十代とはいえ、あなどれない速さである。 だが。 ラス「とりあえず訳わからんけど、いくぜ!」 本部で鍛え上げられてまだ間もない二人の方も、……あなどれない速さである。 * その頃青年『レスト』……いや、キョウゴは一足先に夜行列車に乗っていた。少し古びた列車で道も旧道なのかあまり手を加えられていない。 列車は今、長いトンネルを抜けた。 くぐもった轟音が一気に耳を抜けるとそこには先ほどの夕焼けはなく、夜の空が現れて広い海は月の光を浴びて紺碧に輝いている。 そしてこの列車はこれから海沿いの林道を抜けて海の上を走るのだ。 キョウゴは列車内の電気のスイッチを探して電気を消す。すると月明かりがいっそう綺麗に見えた。 彼以外にその車両に乗っている者は居ないので電気を消しても支障はない。 キョウゴはつり革につかまって海を眺める。昔からこういう景色は好きだった。 ふと、ある人のことが頭をよぎる。そして微笑した。 「……今回は俺の『勝ち』ですね、刑事さん」 月に雲がかかって、光を覆い隠した。同時に彼の表情が曇る。 ただなんとなくさっきの景色をしばらく見ていたかった彼は右手を空にかざして……綺麗な青い光をその手から発して雲を払いのけた。 ―――――――――そう、彼は普通の人間とは少し離れた存在だった。
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