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最終話
「それって、ナカオさん絶対タカヤマさんのこと待ってましたよねえ」
「お前は余韻とか気遣いとか、そういうのを気にする感性が欠けているのな」
タカヤマは後輩と時間管理警察の本部の中庭にある喫煙スペースで一服がてら、ナカオとの最後のやり取りを報告していた。教えてと言われたわけでもなかったのだが、彼女には話しておこうと、午後からの非番を返上して彼女を呼び出したのである。しかしせっかく話してやったのに後輩はさして興味を持たなかったようだ。
「それにしても上はまーたてんやわんやですよお。身内が手引きしてあんな大規模な事件を起こしたものですし、しかも動機が動機なこともあって、世間にどう説明したものかお祭り騒ぎで」
「上の仕事はこれからでも、現場にとってはひと段落さ」
「私はまだ調書とか残ってますけど……タカヤマさんはいいですよね。もうこの件については完っ全に外されましたしぃ」
「仕事を終えたと言ってくれや」
この世に3時が無事に戻ってきた。オオツキが所持していたTMデバイスの記録をもとに、3時という概念はこの世に解き放たれた。人々の認識に3時が完全に復活し、時計の文字盤の2と4の間には3があるとはっきりわかるようになった。
反面、失われたものもあった。過去の3時の出来事の一部とその記憶、3時に行われるはずだった数々の予定も実行されないまま時間は進んでしまった。中でも最も深刻な事件の跡は、行方が忽然と消えていた過去の3時台の出生者の中に、一部まだ戻ってきていない方がいるということだ。その数およそ2千人。
そして、もう一人。オオツキが疑わしいと思い近付いた時捜の一人、セオ捜査員は個人の時間を奪われ、彼も戻ってくることもなかった。
「これから私たち、時捜はどうなるんですかねえ。時間管理警察が解体されるなんてこと……ないですよねえ?」
「いや、あるかもしれないな……。まだ設立されてそんな歴史がある組織でもないし、国民にクリーンな態勢をアピールし直さないとなると、組織再編も十分ありえるだろ。時間管理の技術そのものにも批判が集まっているし、どこまで影響があるんだろうな……」
「あぁー、嫌です嫌です。ねえタカヤマさん、もし時捜をクビになったら再就職先はお願いしますね」
「俺にそんな心当たりがあると思うか」
「真っ先にクビになりそうなのはタカヤマさんですしい、私もクビになったらタカヤマさんの再就職先に付いていくことにするんで」
もしも時捜を辞めたら……そんなことなど20代の頃は考えたこともなかった。しかし、もしかしたら。
「……タカヤマさん」
「なんだよ」
「タカヤマさんは、冴えない冴えない時捜のタカヤマさんが一番お似合いだと思いますよお」
「……お前はもう少し素直な後輩に変わってくれよ」
タカヤマはまだ吸いかけであった2本目の煙草を携帯灰皿に突っ込む。
「タカヤマさん、どちらへ?」
「歯医者」
男タカヤマ32歳、時間管理警察捜査官として人々が積み重ねてきた時間を守るべく、今日も中年の身体に鞭を打ち仕事に励むのである。
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